マネロンの「定説」を鵜呑みにすべからず!(2) 反社チェック、コンプラ・チェック上の留意点


前回は「マネー・ロンダリングがどのように行われるか?」を説明するフレームワークとして定説となっている「三段階説」をご説明した。この定説によれば、マネー・ロンダリングは、(1)プレイスメント→(2)レイヤーリング→(3)インテグレイションの段階を経て完遂する。

 

このフレームワークは分かりやすいものであるし、確かに多くの事例を説明することができるだろう。しかし、これを定説として崇めるあまり凝り固まった見方しかできないと、反社チェックやコンプライアンス・チェックの際に弊害が生じてしまう。今回コラムでは、その理由とチェック時の留意点を述べたい。

 

まず指摘したいのは「必ずしも三段階説のステップでマネロンが行われるわけではない」ということだ。

 

【マネロン三段階説】(定説)

(1)プレイスメント(Placement):犯罪収益を金融システムに組み込む段階。

(2)レイヤーリング(Layering):資金の出所を不明瞭化する段階。

(3)インテグレイション(Integration):資金を合法的な経済活動に投入する段階。

 

定説によれば、マネー・ロンダリングは(1)→(2)→(3)の三段階を経て遂行されるが、現実にはいきなり(3)インテグレイションが行われ、その後に(1)と(2)が行われる、といった場合もある。

 

例えばこうだ。不動産など高額な取引でも未だ現金で決済されることがある。特殊詐欺で稼いだ現金(札束)を持参して代金を決済しようとしても不自然ではあるが相手によっては通らない話ではないと思われる。持参した現金の出所を上手く誤魔化したうえで物件を購入できれば、それでインテグレイションが完了する。そして取得した物件を「事情を知らない買主」に売却し、その代金を銀行口座に振り込んでもらう(プレイスメント)。その後、複雑化するためにその口座から別の口座へ資金を移転していく(レイヤーリング)。つまり、定説とは異なり、(3)→(1)→(2)の順でマネー・ロンダリングが遂行されていくパターンも往々にしてあるということだ。

 

ここで我々事業者が避けたいのは「事情を知らない買主」としてマネー・ロンダリング(プレイスメント)に加担してしまうことだ。

 

「三段階説」によれば、プレイスメントとはマネロンの「第一段階」として銀行などの金融システムに犯罪収益を組み込むことである。そうであれば、プレイスメントには一般事業者は無関係であり、専ら銀行等だけが気を付ければよい、ということになる。しかし、そうではなく、我々の商取引に係る「購入代金の支払い(銀行振込)」という行為によって、結果として犯罪収益が金融システムに組み込まれてしまうこともあり得るということに留意したい。つまり、三段階説を鵜呑みにしてはならない、ということだ。

 

マネー・ロンダラー(資金洗浄する人)は、現金決済によりモノを入手済みである(商取引によりインテグレイション済)。そのモノを我々が購入し対価の支払いとして相手の口座に銀行振込を行うことで、マネロン過程において最大の難関である「プレイスメント」に(意図せず)加担してしまうことになる。

 

こうした失敗を回避するためにも、不動産等の高額なモノを購入するのであれば、相手(売主)がそもそも何故その物件を入手できたのか?その資力に着眼してチェックを行うことが肝要である。事業実態や業績・財務面なども含めたチェックを怠ってはならない。自社が「買う側」だからといって相手の資力チェックを怠るのは「駄目な与信管理」の典型であるが、コンプラ・チェックも同じである。自社が支払いをする側であっても、マネロンに関与してしまうリスクがあると用心することが重要だ。

 

このようにコンプラ・チェックの際には「三段階説」が想定しない「変化球」があることを十分に留意しておきたい。この警戒心が緩むとチェックが甘くなりマネー・ロンダラーを利してしまうことになりかねない。自社が「マネロン加担会社」と揶揄され、警戒されることになりかねない。

 

コンプラ・チェックにおいては、理論(三段階説)を頭の片隅に置きつつも、それに拘泥せず、「不自然さ」や「違和感」を感じ取ろうとする姿勢が最も重要だと思われる。

 

H.Izumi