実質的な支配関係を認定する難しさと労力



ある経済主体が別の経済主体の支配を受けていることを突き止め検証するのは非常に難しい。

 

このことを税務における「実質所得者課税の原則」の適用を例にイメージしてみよう。この原則は、事業などから生ずる収益について、名義上(形式上)の帰属者ではなく、実質的な帰属者に課税するというものだ。

 

例えば、飲食店の経営者A氏がいるとする。店舗の賃借契約、保健所への営業申請や税務申告は全てA氏名義で行う。日々の従業員への指示も全てA氏が行う。普通に見ればA氏が経営者である。A氏自身も飲食経営者と自覚しているし、友人や家族にもそのような顔で接している。

 

しかし、実はA氏の裏にB氏がいる。A氏は毎日の売上金をB氏に持参し、その日の営業状況を報告。次の営業日における指示も受ける。通帳印鑑もB氏が管理している。A氏の報酬はB氏から得ている。

 

つまりB氏がこの飲食店の実質的支配者(収益の実質的帰属者)であり課税されるべき者となる。

 

ただ、そもそもB氏の存在を発見するには税務調査官の「凄腕」が必要だろうし、この証明のためには、A氏とB氏の上下関係を示す痕跡、売上金をB氏に運んでいる場面や売上金のたまり(蓄財した資産)などを押さえることが必要になるのだろう。

 

そうした証拠をもって初めてB氏を実質的な支配者(真の受益者)として認定できるのだろう。大変な労力である。

 

税務調査で行うこのような労力を、すべての法人の「実質的支配者」の確認に投下できるはずがない。これは日本だけでなく海外でもそうであろう。

 

 

「実質的支配者」はあくまで法人の申告ベースの情報にすぎない(これをCompany approachという)。もちろん大部分の法人はきちんと真実を申告するだろう。

 

ただ、我々が最も警戒すべき犯罪者(マネー・ロンダラー)の関係者が正直に申告をするとは思えない。

 

欧州では虚偽申告などの違反者に対し懲役を含む「刑事制裁」が加えられるようだが、裏返せば、そこまで威嚇しないと悪だくみする連中には遵守されないと想定したからであろう。

 

アクティブ株式会社 泉博伸 2021年7月18日