犯罪収益の金額推計。莫大な犯罪収益が剥奪されずにマネー・ロンダリングされている。


世の中で一体どの位の金額の犯罪収益が発生し、そのうち、どれだけがマネー・ロンダリング(資金洗浄)されているのだろうか?

 

結論から言えば、このような問いに対して「バシッ」とした数値を示すことはできない。しかし、様々な研究・調査よれば、その「規模感(GDP比)」は一定のレンジ(範囲)で示すことができるようだ。

 

例えば、IMF(国際通貨基金)は、世界のGDPの2~5%に相当する金額が毎年マネー・ロンダリングされているとする(この比率は1998年に公表されたものだが現在でも専門家等の間で「コンセンサス・レンジ」としてマネロン額をイメージするうえで普及しているようだ)。これに基づけば、2019年の世界GDPは約85兆米ドル(約9,000兆円)であるから(世界銀行)、およそ1.7兆~4.3兆米ドル(180~450兆円)が毎年マネー・ロンダリングされていることになる。推計値の下限でもカナダのGDP(1.7兆米ドル)に匹敵し、世界4位の経済大国ドイツのGDP(3.8兆米ドル)をも超える可能性のある規模である(日本のGDPは5.1兆米ドル。数値はいずれも2019年)。

 

少し古くなるが犯罪収益/マネロンの規模推計に関するメジャーな調査として国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2011年のレポートがある(文末に文献名を掲示)。同レポートは様々な先行研究をサーベイしたうえで、「犯罪収益の最良推定値は2009年の世界GDPベースでおよそ2.1兆米ドル、すなわち世界GDPの3.6%(95%信頼区間:2.3~5.5%)」としている(注1)。これは犯罪収益の総額であり、そのうちのマネロンされる金額を次のように推定している。「洗浄されるマネー総額の最良推定値は、2009年の世界GDPベースでおよそ1.6兆米ドル、すなわち世界GDPの2.7%(95%信頼区間:2.1~4.0%)」である(同レポート9頁より引用。筆者訳)。つまり、マネロンされるのは、犯罪収益の発生額(世界GDP比3.6%)の約7割(2.7%÷3.6%)としている。なお、UNODCの調査が示すマネロン額のGDP比(2.7%)は、先のIMFのコンセンサス・レンジ(2~5%)の範囲内に収まっている(注2)。

 

(注1)最良推定値は、「もっとも確からしい推定値」のことであるが、あくまで推定なので誤差がある。それでも95%の確率でこの区間(信頼区間)に収まる、という意味である。

(注2)IMFおよびUNODC の調査は過去に行われたものだがGDP比で示されていることから、任意の年のGDPを用いることによりその年のマネロン金額を大まかに概算(イメージ)できる。

 

ここではひとまず、「この世では、世界GDPの2~5%(=先進国1か国の規模)に相当するマネーがロンダリングされている」というイメージだけ持っておきたい。先進国規模の仮想国家を想定し、その経済活動が全て犯罪行為であり、得られた収益の大部分が世界中でロンダリングされているイメージである。

 

日本では、特殊詐欺(オレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、融資保証金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺、その他の特殊詐欺、キャッシュカード詐欺盗)の被害額が警察庁により毎年公表されている。

 

それによれば、2019年中の特殊詐欺の被害額は約316億円と単年だけでも巨額であるが、過去10年を合計すると3,700億円を超える膨大な被害額(犯罪収益)となる。

 

この犯罪マネーは何処に行ったのだろうか?

 

結論からいえば、そのほとんどがロンダリング(洗浄)されてオモテの世界で跋扈していると状況と目される。詐欺グループの関係者が「フロント会社」を通じて特殊詐欺被害金を軍資金に資産や会社を買い漁ったり、他人名義で高級品等へ散財している状況が想定される。

 

そう考える一つの理由として、特殊詐欺による2018年からの過去10年の被害総額は約3,500億円であるのに対し、同期間の被害回復給付金・分配金(*)の合計額は約170億円、組織的犯罪処罰法に基づく没収・追徴額は約340億円に留まる。つまり、特殊詐欺の犯罪収益3,500億円のうち約15%(170億円+340億円)程度しか剥奪(はくだつ)できていない状況だからである(厳密性を捨象した大まかなイメージレベルの数字)。その他の大部分は闇に逃げ隠れてしまったのである。

 

(*)被害回復給付金:詐欺罪、恐喝罪、出資法の高金利受領罪等の被害者に対し、犯人から剥奪した被害財産を金銭化して給付する制度。被害回復分配金:振り込め詐欺等に使用された口座を凍結し被害者に被害金を返還する制度。

 

当局による犯罪収益の差押・凍結(インターセプション)は、世界的にも低調なようだ。前出のUNODCのレポートによれば、「グローバルレベルでのマネー・ロンダリング対策における“インターセプション・レート”は低いままだ。世界的に見て、金融システムを通じロンダリングされる犯罪収益のうち差押・凍結されるのは、1%よりずっと少ない(おそらく0.2%程度)」とされる(同レポート7頁より引用。筆者訳)。つまり、マネロン額の99%超が剥奪されずに隠匿され或いはオモテの世界で流通しているということだ。

 

莫大な犯罪収益が剥奪されないまま世の中に跋扈している。犯罪収益、或いはそれに由来する資金を使う者は身近にいる。販売や仕入、プロモーション、ファイナンス、事業提携などあらゆる局面で犯罪収益に由来する資金で運営される(と見立てられる)マネロン会社が登場してくる可能性がある。審査パーソンにとってこの認識(気構え)は重要である。十分なコンプライアンス・チェックを行いマネロン関与リスクを見極めていくことが重要である。

 

アクティブ株式会社 泉博伸

 

■引用文献

United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC).(2011). Estimating illicit financial flows resulting from drug trafficking and other transnational organized crimes. https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/Studies/Illicit_financial_flows_2011_web.pdf

 

なお、特殊詐欺関連の数値は警察庁・法務省のWEBページを参照している。

●代表者のコラムをメールマガジンで配信中→ご登録はこちらです(外部リンク。配信元は株式会社ジー・サーチとなります。弊社はご登録の情報には関知しません)。