ツッコミどころ満載の「実質的支配者」の定義 


日本における実質的支配者の定義は、実のところツッコミどころ満載である。

 

そのため、反社チェックの観点からは、実質的支配者の制度は無いよりはあった方がいいが、反社チェック担当者はその情報を鵜呑みにしてはダメだ。

 

■実質的支配者の定義(犯罪収益移転防止法施行規則112項)

 

株式会社の場合について定義の骨子は次のとおりである。

 

 

① 議決権総数の50%超の議決権を直接・間接に有する自然人

② ①の該当者がなければ議決権総数の25%超の議決権を直接・間接に有する自然人

③ ②の該当者がなければ出資・融資・取引を通じて事業活動に支配的な影響力を有する自然人

④ ①②③の該当者がなければ、代表取締役(自然人)。

 

さて、軽くジャブから打っていこう。

 

まず、例えば代表者が51%の株式(議決権)を所有していれば①に該当し、②以降は考慮する必要がない。実質的支配者としてリストアップされるのは当該代表者(①)だけである。

 

しかし、そのほかの少数株主、例えば10%の出資者であってもその者が反社会的勢力に関係しているなどの不芳な属性を持つならば事は重大である。

 

反社チェックの目的は「レピュテーションの防衛」にあるので、そのような者に配当を流しているような会社とは付き合えないだろう。つまり、実質的支配者だけで反社チェックを済ますのは論外だ。

 

次に、①②の該当がなければ③の「支配的影響力を有する自然人」となる。しかし、詐欺や闇金の首領が裏に潜んでいるフロント会社が、その首領の名前を正直に書くだろうか。

 

適当に当たり障りのない人物を申告するだけだろう。また、真の意味で実質的な支配関係を探索し、認定(検証)するというのは非常に難しく労力がかかるはずだ。登記官にそれができるのか?難しいであろう。

 

そのことをイメージするためのコラムとして【実質的な支配関係を認定する難しさと労力】を記しておいた。時間があればお目を通し頂ければ幸いである。

 

これ以外に、この定義にはまだ本質的な穴がある。我々が最も察知したい「取引先が反社会的な乗っ取りにあう危機的状況」において実質的支配者の情報が全く感応しないという穴だ。この点については別のコラムで述べたい。

 

 

実質的支配者は、その字面(じづら)から受ける印象に反し、単なる形式基準に当てはめて判定される者に過ぎず、まったく「実質的」ではないのだ。

 

実質的支配者の情報は、反社チェックの決め手となるような情報にはなり得ない。字面から受ける印象に騙されてはならず、取り扱いには注意が必要である。

 

H.Izumi 2021年7月18日