AI(人工知能)時代の与信管理・与信審査パーソンの生き残り策





▮淘汰される与信管理・与信審査パーソン

 

与信管理を単なる債権回収の視点でとらえる審査パーソンは淘汰される。

 

なぜなら、その領域はAI(人工知能)による与信モデルのより精緻な倒産予測に代替されうるからだ。

 

 

「取引先の財務が悪い、だから取引をやめよう」

 

「取引先の財務は良好、だからこれまでどおり取引をしよう」

 

 

弁護士や会計士・税理士でさえ職を失うと言われているAI時代。

 

このような視点しか持ち合わせないような与信管理・審査パーソンは、

 

いずれAI(人工知能)によるスコアリングに取って代わられる。

 

 

決算数値の分析やその他ネット上のネガティブ情報の収集分析は、

 

AI(人工知能)が累積的に経験値を積んでいけば、いずれ人間がやるよりも、

 

はるかに迅速かつ正確・網羅的に行えるようになる。

 

 

そういった想定のもと、与信管理・与信審査パーソンは、

 

自身の職務とスキルアップを考えていかなければならない。

 

 

▮金融機関(銀行・クレジット・信販等)と事業会社の与信管理の違い

 

なお、ここで述べるのは、事業会社(商社・メーカー・コンサルティング・広告等のサービス)の

 

与信管理に関する話であり、金融機関の与信は対象としていない。

 

事業会社の与信管理と金融機関(銀行・クレジット・信販等)は全く異質なものだからだ。

 

また、事業会社であっても消費者を対象とした小売やネット販売の与信も除かれる。

 

 

事業会社(商社等)は、与信先とともにリアルなビジネスを作るのが前提だ。

 

取引相手の本業に深くかかわり、ともに成長することを目指す。

 

その上での与信管理が「事業会社の与信管理」なのだ。

 

 

一方、金融機関や消費者を相手としたビジネスの

 

与信管理は、スポット・スポットの貸出債権や売掛債権が回収できれば、

 

それでいいのだ。銀行は融資先と「本業面」で関われるわけではないし、

 

ネット販売業者も消費者とともにリスクと取ってビジネスを創るわけではないからだ。

 

 

金融機関(銀行・クレジット・信販等)の融資判断・債権回収は、

 

債権さえ無事回収できれば、それで良いのだ。

 

そうなると相手が倒産するかどうか、貸したお金が返ってくるか、

 

そういった事だけ財務や定性面から分析するのが

 

与信審査の主目的となる。(担保さえ十分であれば、審査さえ不要だろう)

 

 

倒産を予知するための財務分析・決算分析は、審査パーソンの

 

腕の見せ所ではあるが、AI与信はそれと同等以上のスキルを

 

大量データ(ビッグデータ)に基づく学習で身に着けるはずだ。

 

どの勘定の動きが不自然かといったチェックは、

 

人間の頭の中でもデジタルに行うことであり、

 

感情や情熱など人間的な要素が不要な仕事である。

 

AI化される仕事であり、されるべき仕事である。

 

金融機関の融資・与信は、間違いなく人手がいらなくなる。

 

 

 

余談になるが、先般、銀行員の転職が増えているという記事があったが、

 

なるほどさすが銀行員だ。

 

銀行の融資判断や与信管理はAI(人工知能)によって代替されることを

 

自らリアルに予測しているからだろう。

 

 

金融機関から事業会社の与信管理部門に転職しようとする方に、

 

一つ経験に基づくアドバイスがある。

 

(詳細は「0点の与信稟議書に喝!」をご参照)


筆者(泉)も信用調査会社を経て商社で与信管理をした経験の持ち主だ。

 

信用調査会社以前は、国税局・税務署で滞納整理に関わる企業調査を行っていた。

 

国税・信用調査会社での企業分析と、

 

商社での企業分析は全く別物であると気が付いたのは、非常に良い経験だった。

 

何が違うかといえば、国税・信用調査会社(金融機関も同じ)は、

 

与信先と、本業面でビジネスを共に行う立場ではないということだ。

 

端的に言えば、相手の「粗利益率」「営業利益率」に影響を与える立場

 

ではないということだ。

 

一方、商社など事業会社においては、相手の本業に深く関わるから、

 

自社の営業スタンスが相手の業績や財務に影響する。

 

経済学的にいえば、相手の財務内容は「所与」ではなく、「内生変数」なのだ。

 

商社の立場から言えば、大口与信先の財務内容は、自分自身が決めているといってもよい。

 

だから、相手の財務が云々というのは、極端な話、どうでもよい。

 

財務が悪いから取引をしない、というのでは商社の存在意義がない。

 

銀行と同じになってしまう。

 

「取引相手は確かに悪い。でも光るものがある。

 

だから俺たちがビジネスを通じて支援すれば、きっと良くなる。自分たちも儲かる」

 

このような商社の「商魂猛々しさ」が、日本経済を引っ張ってきたのである。

 

 

事業会社においては、このような成長のためのリスクテイクの前提として、

 

与信管理が存在するのだ。

 

リスクをテイクするための与信管理でなければならい。




▮AI(人工知能)時代だからこそ、与信管理にも「企業価値経営」の視点を

 

決算書や信用調査書を眺めて単に「財務が悪いですね」というような

 

結論を出す手間は、すべてAI化する。そこに時間をかけるべきではない。

 

 

それよりも、AI与信モデルによって算出された財務や信用リスクを「基礎情報」

 

として、そのうえで、どう取引相手と向き合うべきか。

 

自社の財務体力(リスクへの耐性)や経営戦略・成長戦略・ビジョンを

 

踏まえて総合的に判断していく。

 

その過程で、営業部門と管理部門が喧々諤々のアナログ的な議論をどんどん闘わせる。

 

(営業部門と管理部門のコミュニケーションの重要性は、コラム「与信管理と営業戦略」をご参照)

 

 

そういったアナログ的なコミュニケーションの時間を創出するために、AIを活用するのだ。

 

粉飾分析の職人的な審査はAI化される一方、

 

社内外とのコミュニケーションや会社のビジョンを深く理解している

 

全方位型のバランスの取れた人材が必要になってくる。

 

 

事業会社の与信管理ポジション(求人)については、中途採用が主流に思える。

 

主に金融機関や信用調査会社出身者の畑だ。

 

これは決算書を読んだり財務分析ができるからだと思われる。

 

しかし、そういった業務がAI(人工知能)によって代替されるのであれば、

 

全然違う畑の人材でもよくなってくるはずだ。

 

コミュニケーションが得意な人材や、

 

その業界の将来像が描けるような営業経験者なども適任かもしれない。

 

決算書のスキルではなく、社内外の情勢を読み取って、

 

経営層に的確に具申できる力。

 

イメージとしては、積極的に営業部門のメンバーと飲みに行って、

 

営業部門のリアルな姿をキャッチするような人間。

 

そういった昭和的なアナログ人間がAI(人工知能)時代の

 

与信管理・与信審査パーソンに適していると思われる。

 

 

結局、やや陳腐化しているコトバになるが、「企業価値経営」の意識が重要だ。

 

 

「事業会社」が単に信用格付や財務リスクだけで取引判断していては、

 

ROEを重視するステークホルダーに説明がつかない。

 

「財務が安定だから取引、財務が不安だから取引しない」では、「ROE8%以上」は達成できない。

 

財務が安定的な取引先でも、回収サイトが異常に長く、在庫負担も過度に強いられ多額の運転資金が必要となる。

 

その割に利益率が低く、成長性もない。

 

こんな取引を「債権回収リスクが少ないから」というだけで漫然と継続していては、株主への説明責任が果たせない。

 

リスクが高くても、成長性・収益性が見込まれる。そういう取引は積極的に推進する。

 

こういった取引判断についてアドバイスできる力が与信審査パーソンにも求められる。

 

それはAI化できない。冷静さのほかに情熱やビジョンも必要な人間的な仕事だからだ。

 

結局、昭和的、アナログ的な社内外のコミュニケーションや情報収集、

 

そして自分の会社をいかに成長させるかという想いが重要となってくる。

 

なお、念のために申し添える。

 

リスクには2つあって、リスクテイクできるリスク(土俵に乗るリスク)と、テイクしてはいけないリスクがある。

 

上記で述べたリスクテイクとは、あくまで土俵に乗るリスクのテイクだ。

 

通常の与信リスク・財務リスクはこれに該当する。

 

一方、反社リスクなどのコンプライアンスリスクは、土俵に載せてはダメなリスクだ。

 

リスクテイクの前提として、この2つのリスクのふるい分け・判別を行っていただきたい。

 

弊社の反社リスク調査「リスク・スパイダー」をご活用ください。

 

 

(記事:アクティブ株式会社 泉博伸)