「破産歴」のとらえ方(コンプライアンス信用調査の場合)   経営者として再起するための3ヶ条


新型コロナで未曽有の危機に直面する中小経営者。

 

いつ再び光が差すのか見当もつかない深い暗闇の中での苦悩。

 

従業員の生活を守る立場の経営者が苦悩するのは当然といえば当然であるが、しかし、どうか「死」を選ぶようなことはせず、それならば「潔く破産」して再起を図るべきだ。

 

社会主義経済が資本主義経済に敗れた要因は、破産制度が存在せず、企業家が新たな事業にチャレンジできなかったことが一因である、という大きな話は置いておいておいて、

 

破産法1条に

 

「・・・もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする」

 

と破産法の意義が明記されている。

 

つまり、破産とは「破滅」ではなく「再生」のための制度なのだ。

 

後ろめたくも、はずかしくもない。国が認めた再起のための制度なのだ。日々報道される「倒産件数」。半面は不幸を示すかもしれないが、もう半面は「新たなチャレンジ」の数を示しているともいえるのだ。 

 

 

■破産歴のとらえ方(在野の審査マンである私の場合)

 

コンプライアンスにフォーカスして取引判断の所見を提供している筆者の考えとして、経営者の破産歴それ自体はコンプライアンス上の問題とは捉えない。

 

過去に破産しているからといって、新たな会社で真摯に頑張ろうとしているならば、破産歴のみをもって酷な評価はしない。

 

たしかに、ビジネス上の様々な判断が甘く破産に至ったのであるから、破産歴のない経営者よりも経営者としての能力は劣るのかもしれない。

 

ただ、その経験を糧に真摯な気持ちで再起を図る経営者が、破産歴ひとつで「信用に値しない」「取引不可」と判断されてしまう社会では、だれも起業しなくなり、経済は衰弱すること必至だ。

 

 

■このような破産歴は経営者として再起が難しい

 

そうはいっても、調査先経営者に破産歴がある場合は、

 

以下に注意を払うことになる。

 

①過去の破産に至る過程で、闇金融等に手を出していないか?

 

闇金融等の過酷な取り立てに屈し、自分の身分証や預金通帳、あるいは会社そのものを反社会的勢力に売り渡していないか?

 

破産に至るまで、あるいは破産手続き中に詐欺的行為や違法行為を働いていないか?

 

詐欺破産ではないか?(意図的にカネを返さないで逃げるために破産)

 

 

特に調査のうえで重要なのは①②である。

 

破産歴のある人物が、調査先会社の登記簿に載っている場合、それが名ばかりの「傀儡(かいらい)」役員であることが往々にしてあるからだ。

 

つまり、破産の過程で闇金等の反社会的勢力に身分証その他を握られ、名義だけの役員として、複数の会社の代表にさせられる。

 

そしてその会社が詐欺等の犯罪に利用される。

 

だから破産歴のある人物が登記簿に載っている場合、

 

このような観点での精査は必須になる。

 

闇金等に手を出さず、「潔く倒産」し、きちんと実体として真摯に「再起」を図っていることが様々な角度で確認できるならば、この警戒心を解くことになる。

 

 ④(詐欺破産)は、破産制度を悪用し、債権者を害して、資産逃避(蓄財)を図った人物だ。

 

そんな人物が新たに経営している会社は、コンプライアンス的に相当酷な評価となる。

 

詐欺破産で隠した資産(収益)は「犯罪収益」であり、それを原資として設立された新たな会社は「マネロン会社」(マネーロンダリングのための会社)と見たてることができる。

 

刑事事件のレベルで証明できるかどうかは関係ない。そのような相関関係が描かれる以上、我々民間業者はそのような「マネロン会社」と取引をすべきでない。

 

もしそのような「マネロン会社」と販売取引すれば、自分の会社が「代金として犯罪収益を得ている(転得している)」と見たてられてしまうからだ(自社までマネロン会社と評されるレピュテーションリスク)。

 

したがって、過去経営した会社が何故破産したのか、破産処理において問題はなかったのか、この辺りが調査の着眼となる。

 

 

■経営者として再起するための3ヶ条

 

以上の調査の観点を踏まえれば「経営者として」再起するための3ヶ条は次の通りである。 

 

 (1)ムリはしない

 

命と事業は別物だ。事業は時代や環境にそぐわなければ衰退するのは当たり前。事業=命と思いこまないこと。今回の事業は駄目だっただけと割り切る。●転●起。命があれば再起できる。そのためにも、生きること。

 

そして、違法金融業者や得体の知れない「再建コンサルタント」に取り込まれて悪用されては駄目。真面目な経営者としての魂まで捨てるようなムリをしてはだめだ。

   

その事業をどうしても続けたいならきちんとした金融機関や公的制度を利用する。書類が大変だ、時間がかかる、云々は愚痴。きちんとカネを借りるには当然の過程だ。

 

 (2)ズルはしない

   

支払いができなければ債権者に多大な迷惑をかける。債権者もカネが回収できなければ、今度は自分が倒産するかもしれないので必死だ。お互い大変なんだから、コソコソ資産を隠したりズルはしないことだ(資産隠しは犯罪)。

 

そもそも破産前提でカネを集めたり、モノを仕入れている場合は論外。

 

 (3)ゴマかさない

    

破産歴を隠すためか、名刺上の名前を一部変えるなど「変名」にでくわす。どのような名前をビジネスで名乗るかは自由?かもしれないが、私個人は「経営者としての信用」の観点で、このような経営者を警戒する。

   

堂々と本名を名乗り、堂々と過去に破産したことを説明すればよいではないか。なぜゴマかすのか? 余計に「詐欺破産」の警戒心が生まれる。

 

賛否はあろうが、経営者として新たに従業員を雇うならば、過去の破産歴は説明すべきだ。このような自分でもついてくるか?と。従業員は経営者(雇われる会社)に人生の大事な部分を預ける(与信)。一方で自分で信用調査などできないのであるから、雇う側が正直に開示すべきだ。それでも入社したいという者だけ雇えばいい。

   

 

以上は「経営者として」再起する場合の話だ。

 

●債権者の立場からすれば、「潔く破産」されるのは許しがたいかもしれない。しかし、会社が破産するのは市場経済の常であり、そのために与信管理をやるのだ。その案件では、顕在化した与信リスクを回避できなかったに過ぎないともいえる。

 適切な与信限度額を設定していれば、自社の経営が揺らぐほどの影響は回避できうる。

 なお、債務者において詐欺行為や資産隠しが認められる場合は徹底追及するのは当然だ。

 

●余談

 コロナで信用調査も変化するだろう。

 新規引き合いを受けても、営業パーソンが訪問して面談(チェック)ができなくなるし、リモートワークが定着すれば、本社に出勤する人数も減る。

 訪問(現地確認)したところで従業員数や雰囲気を確認するのが難しくなるかもしれない。

 家賃の高い一等地に広々のオフィスを構えているのはステータスでも信用でもなく、単に時代変化に適応できないだけと見なされるかもしれない。無駄に固定家賃を垂れ流す企業は株主からも追及されうる。高い家賃にカネを出すならITに投資せよと。

 我々もリモートワーク時代の信用調査(企業評価)について考えなければならない。

 

H.Izumi