審査部から見た「できる営業」の条件

スマートに取引を遮断する行動原則


審査部から見た「できる営業パーソン」とは、トラブルや問題が生じた時に、契約書云々を持ち出す前に、相手と「ナシ(話)」をつけることができる人間だ。

 

問題が生じるたびに、客先に「契約書の●条●項に、こう書いてありますから」などと最初から切り出す人間は営業センスがない。

(もちろん、トラブルや問題を不正の手段や会社に隠れた「握り」(約束)をすることで解決するのはあってはならない)

 

契約書で相手を納得させるのではなく、日ごろの行動や、それをベースとした「筋論」で相手を納得させることができる営業は、尊敬に値する「できる営業」だ。

 

こうした「できる営業」は、取引相手のコンプライアンス的な事情で契約を解除したい局面でも、力を発揮するだろう。

 

取引相手にコンプライアンス的な「事情」が発覚し、契約を解除したい場合、問答無用で契約を切ることができれば、それに越したことはない。

 

波風を立てず「問答無用の契約解除」を実行するためには、あるいは、解除という言葉を持ち出すまでもなくフェードアウトするためには、日ごろから以下の行動を心掛けるべきである。

 

 

■審査部からみた「できる営業」の必要条件(行動原則)

 

【1】初めて契約を結ぶときの行動

 

①自分の会社は、とにかく「コンプライアンスにうるさい」会社であると相手に知らしめる。

 

②少しでも問題を想起させる情報や噂が発生した場合は、それだけで取引から手を引くかもしれないということを予め知らしめる。

 

①②を実践するのは、さほど難しいことではない。

 

①については、取引口座を作るのには審査のために相応の時間が必要であると伝え、財務諸表等を徴求し、その他実質所有者などの情報も営業自らヒアリングする。

 

こうした手間を敢えて(きちんと)取ることにより、逆に相手に信頼される場合もある。

 

やたらに迅速に取引が進む会社は、逆に怪しいと見られる。マトモなKYC(反社チェック)をやっておらず、アブナイ会社と付き合っているのでは?と危惧されてしまう。

 

自社はそうではなく、「特に初回はしっかり調べさせてもらいます」ということを宣言するべきである。

 

②については「火のないところに煙は立たない」というリスク管理の原理原則の話であり、相手に念押ししても全くおかしくない。

 

とにかく最初が肝心である。相手に生意気だと思われても、堂々たる態度で①と②を実践し、相手との関係における根底に「緊張感」を醸成しておく。

 

こうしたベースを整えた上で、大いにお客のために商売すればいい。

 

 

念のために申し添えるが、たとえ自社が零細で、相手が大手でも①②は実践すべきである。年商数千億円の大手でもヤバい会社(ヤバくなる会社)はいくらでもある。頑固オヤジの零細企業のほうが、よほどコンプライアンスがしっかりしている。

 

 

【2】取引中の行動

 

①相手の会社が行政指導などを受けたり、ネットで営業手法が強引だとか詐欺的だとかの悪評が出回ったら、先方に連絡し事情をヒアリングする。

 

【1】の②で、予め自社の厳格さを知らしめているので、色々聞かれても相手も仕方ないと思うだろう。

 

事の重大性によっては、自社の管理職・役員クラスを同道し、相手のカウンターパートと面談して、事情をヒアリングする。

 

面談中、相手の本質において「ヤバさ」がないと認識出来たら、そこで幹部同士の商談にシフトする。これこそ商魂だ。

 

②①と同時に、審査部にも調査の依頼を出す。(審査部はこれにしっかりと対応しなけばならない。コンプライアンス・リスク、反社リスクの見極めだ)。

 

③特に不芳情報はなくとも、定期的に業況をヒアリングし、決算期には決算書等を徴求しにいく。その際にはコンプライアンスで新聞沙汰になったような会社について雑談し、「ウチでは付き合いは無いですけど、ああいう問題がでるとウチでは厳しく対応しますね」などと、自社が相変わらずコンプライアンスにうるさい会社であると、それとなく匂わす。

 

【3】契約を切るとき

 

【1】【2】を実践し、下地ができていれば、契約を解除したり、取引をフェードアウトしたりしても、相手は文句は言えないはずだ。

 

「ナシ(話)」で解決できるだろう。

 

それでも話こじれた場合は、いよいよ契約書の話となる。

 

契約書において解除条項というのは、最も重要な条項である。私は法律家ではないので、安易に解除の法理や判例を述べることはしない。

 

ただ一つだけ述べるとすれば、「ナシ(話)」で解決するためにも、解除条項は広く規定すべきである、と考えている。

 

弁護士の中には、「●●の判例では、こうした解除条項は無効となっているから契約書から削除すべき」などと言ってくる者がいるかもしれない。

 

私は、個人的にこのような法的アドバイスは好きではない(失礼ながらビジネスセンスがない弁護士だと思う)。

 

確かに裁判でモメたらその条項は無効かもしれないが、裁判に行かず、「ナシ(話)」で解決するためにも、解除できる条項をできるだけ広く契約書に書いておくべきだと思う。

 

契約書に書いてあればそれで納得する場合もあるのだから。(自社にコンプラの問題が生じれば諸刃だが)。

 

以上、審査部から見た「できる営業」の条件である。

これ以外にも、ぜひ身に着けてほしいリスクマインドがある。

 

 

H.Izumi