外国公務員贈賄リスク(2)

リスクベース・アプローチに基づく贈賄リスクの評価




▮「リスクベース・アプローチ」に基づく贈賄リスクの評価(アセスメント)

前項(なぜ今、外国公務員贈賄リスク対策なのか?)の通り、グローバルビジネスにおける贈賄リスクは高まっている。

 

贈賄リスクへの対応としての「リスクベース・アプローチ」に基づく贈賄リスクの評価(アセスメント)について、

 

具体的な方法論(リスクの点数化)をご紹介したい。

 

●リスクベース・アプローチ

 

「リスクベース・アプローチ」とは、リスクのより高い事象により多くの経営資源を投入する一方、

 

低リスクの事象への資源投入は抑え、リスク管理の費用対効果を高めようとする考え方である。

 

元々は、会計監査の中で発展した概念といわれるが、

 

現在はリスク管理全般の分野で広く活用されているアプローチである。

 

コンプライアンスの分野において、リスクベース・アプローチに基づくリスク管理は

 

実質的に「MUST(義務)」とされている。

 

それは、FATF勧告(*)が、マネー・ロンダリング対策において、

 

リスクベース・アプローチの導入を求めていることに由来する。

 

(*)マネー・ロンダリングに関する政府間機関であるFATFが、

 

   各国政府が金融規制上取るべき措置として勧告するもの。

 

日本においても、201610月の改正犯罪収益移転防止法の施行によって、

 

マネー・ロンダリング対策は、リスクベース・アプローチによることが明確化されている。

 

マネー・ロンダリングと贈収賄は表裏一体であり、

 

贈賄リスクにフォーカスした管理においても、リスクベースなアプローチが必要である。

 

●贈賄リスクの要素

 

 

リスクベース・アプローチには、決まりきった方法はないと思われる。

 

各企業自らの判断基準によって、ハイリスクと見なす活動に、より管理リソースを投入していけばよい。

 

その前提となるのが、リスクの評価である。

 

リスクの総合的な評価をするためには、それを構成するリスク要素(要因)を分析していくことから出発する。

 

 

贈賄リスクを評価するうえで、例えば次のようなリスク要素(要因)を分析し、

 

それを総合的に評価していく。

 

そして、よりリスクの高い相手や事業領域に、リスク管理のリソースを投入していくのだ。

 

(1)贈賄リスク要素① ~国・地域~

 

取引相手の所在国、事業活動を行う地域の贈賄リスクの高低を確認し、リスク評価の要素とする。広く知られているのは、世界的なNGOであるトランスペアレンシー・インターナショナルの「腐敗認識指数」(https://www.transparency.org)である。同指数によれば、アジア、中東、アフリカ、中南米等の腐敗認識指数は概して悪く、贈賄リスクは高いと評価される(100がもっとも腐敗度が低くクリーンであり、0が腐敗度が大きい)。

 

(2)贈賄リスク要素② ~行為類型(活動内容や関わり方)~

 

海外における活動内容や取引相手との関わりの態様について、贈賄の起こりやすさの観点から評価を行う。現地での許認可取得など公務員とのかかわりが大きい行為類型は、高リスクとして評価する。

 

例えば、以下のような行為類型は一般的に贈賄リスクが高いと考えられている。

     現地エージェント、コンサルタント等の起用

現地政府から許認可の取得を目指す場合や、政府・国営企業からの受注獲得を目指す場合に、助言・交渉役として現地のエージェント等を起用するなどの行為

     外国公務員等に対する直接、間接の支払いを伴う社交行為、寄付行為

     販売における過度の値引き、仕入れにおける高値での購買、多額のリベートの支出などの不自然な行為

     (腐敗認識指数の悪い高リスク国における)政府関連売上の大きい企業との取引(売買、資本提携等)

     (腐敗認識指数の悪い高リスク国における)SPCの組成と利用

 

(3)贈賄リスク要素③ ~業種(自社のセグメント、取引相手の事業内容)~

 現地の許認可が必要となるような業種は、外国公務員との関わりも大きくなるので贈賄のリスクが高い。商社、防衛、製薬、医療機器、資源、建設、不動産、運輸、金融はリスクが高いものとして「ガイドライン」にも列挙されている。

自社の海外事業のセグメントや相手方の事業内容がこのような業種に属す場合は、リスクが高いものとして評価する。

 

(4)贈賄リスク要素④ ~相手の政治的影響力の確認

 対面する直接の取引相手や間に入るエージェント、交際費等の支出先が、外国公務員に該当するかどうかをチェックする。このチェックこそ贈賄リスク評価の胆(キモ)となる。弊社の反社チェック調査「リスク・スパイダー」で対応可能である。

 

「外国公務員」の定義については、不正競争防止法上に規定がある(18条)。しかし、海外ビジネスにおいては、外国当局による摘発に注意しなければならず、グローバル規制(*)上の「外国公務員」の定義を踏襲した相手方の属性チェックが必要となる。

 

ただ、グローバル規制上の定義は、包括的であり、実務上、相手がそれに該当するかどうか判断に迷うこともあるようだ。狭くとらえすぎたリスク管理を行うと、実績をあげたい捜査当局の拡大解釈によって摘発される恐れがある。

 

そこで、実務上は、「政治的影響力」という実質ベースの概念で管理していくのが望ましい。例えば、重要な地位にある者はもちろん、その配偶者等も実質的な「政治的影響力」があるとみなしてリスク評価していく考え方である。

 

さらに、政治的影響力の高低により、数段階のレベル分けをし、リスクベースの観点での実務運用していくのも一案である。例えば、自社の遂行している事業が相手国のビッグプロジェクトであれば、より高次の政治的影響力のある人物が贈賄の対象となりうる。

しかし、自社の社員が対面している人物の政治的影響力が低い(最小行政単位の議員等)場合であるならば、「あまり関係がなさそうだ」ということで管理対象からはずし、リソースをよりハイリスクな事象に投入できる。

こうした諸外国のPEPsリストは、商用化されており、ものによっては、政治的影響力のレベル分けを行っているデータベースもある。リスクベースな管理に対応しやすいものとなっている。

 

なお、どんな商用データベースも情報を完全に網羅しているわけではないことに注意が必要だ。実務上は、上記の他のリスク要素の高低に応じて、取引相手およびその関係者に、親族の社会的身分(政治家や公務員等であるかないか)に関する申告を求めることも必要であろう。

 

ちなみに各メディアやWEB情報から集積された商用データベースが、著作権をクリアしているかは必ず確認すべきである。著作権の対応を施さない商用データベースは違法性が高い。コンプライアンス強化のために行うチェックを違法性の高いデータベースで行うことは本末転倒である。情報提供会社にきちんと確認したほうがよい(情報提供会社をコンプライアンスチェックしたほうがよい)。

 

弊社では、海外コンプライアンスチェックに使用できる有用かつ著作権をクリアしている合法的な

商用データベースもご紹介している。

ご関心のある方は、お問い合わせください。

 

(*)グローバル規制上の定義:FATF(金融活動作業部会)、UNCAC(国連腐敗防止条約)、The 4th EU Money Laundering Directive(第4EUマネー・ロンダリング防止グループ)、Wolfsberg Group (金融機関によるマネー・ロンダリング防止グループ)等。

 

(5)金額

過去の日本における外国公務員贈賄事件をみても、贈賄額が数十万円程度でも立件されており、それが社会的に大きくクローズアップされている。捜査当局においては、事案の大きさよりも、摘発件数こそ重要なのかもしれない。従って、金額の多寡をリスク要素とすることは得策でないといえる。【参考コラム:コンプライアンスは金額で管理しない

 

●総合的な贈賄リスク評価

 

上記のリスク要素を分析し、おのおの評価したうえで、総合的な贈賄リスクを評価する。

その際、各リスク要素にウェイトづけするもの一案である。特に行為類型と相手の属性(政治的影響力)は、より直接的な要素であるので配点を大きくするといった具合だ。下記の案では、1000点満点で贈賄リスクを評価している(点数の大きいほどリスクが大きい)。

 

(1)   国・地域:配点100

100-腐敗認識指数:腐敗認識指数は高いほどクリーン(健全)なので、100から引き算し、数値が大きいものほど高リスクとして評価。

 

(2)   行為類型:配点400

自社の実態や進出国の特性・風習に応じて、よりリスクの高い行為・活動に高配点する。

 

(3)   業種:配点100

 

相手方または自社の事業領域が「危険業種」に該当する場合に加点100

 

(4)   政治的影響力:配点400

商用データベースのPEPsレベルに応じて配点。レベルA:400点、レベルB:300点、レベルC:200点、レベルD:100点。レベルAがもっとも政治的影響力が高い。

 

上記のウェイト付けはあくまで一案であるが、このような配点により贈賄リスクの高いと評価されたものから、重点的に内部監査や社員教育などのリソースを投入していくのだ。これが、「指針」「ガイドライン」にも適合的なリスクベース・アプローチに基づく贈賄リスクの評価方法であると思われる。

 

なお、リスク・アプローチに基づく評価を行ったうえで、低リスクとして評価・整理した事象について不幸にも贈収賄が発見・摘発されてしまった場合、このようなリスク評価をきちんと実施している企業であれば、当局の判断において一定の斟酌がなされる可能性もあるという(米司法省/米証券取引委員会のFCPAリソースガイド)。

 

 

要は、一定の合理性を持つリスク評価を行っていれば、罪が軽減されることもあり得るということだ。繰り返しになるが、リスク・アプローチの方法に決まりはない。それならば、一定の合理性を保ちつつ、できるだけシンプルで実行可能な評価方法でよいと思われる。