外国公務員贈賄リスク(1)

なぜ今、外国公務員贈賄リスク対策なのか?




昨今、世界的に贈賄規制が強化されている。海外展開を積極化する日本企業にとっては、贈賄に関与して摘発されるリスクが高まっており、細心の注意が必要だ。

 

外国公務員に対する贈賄とは、国際的なビジネスにおいて自らの営業上の不正な利益を得るために外国の公務員等に対して直接または第三者を通して金銭等を渡したり、それを申し出たり、約束したりすることだ。

 

例えば、現地子会社(の社員)が、その実績をあげるために、影響力のある現地公務員に金銭等の利益供与を行い不正に許認可を獲得しようとするようなことだ。

 

こうした不正を現地のみならず、本社サイドでも管理するのが外国公務員への贈賄リスクの管理である。

 

外国公務員に対する贈賄は犯罪だ(不正競争防止法18条)。日本企業が外国で行った贈賄は、日本において罰せられる。そして、現地でも贈賄罪に問われ、時として身柄を拘束されかねない。

 

これに加え、アメリカの海外腐敗行為防止法(FCPA)、イギリスの贈収賄法(UKBA)などの外国の規制が適用されるリスクもある。ビジネスを行っているのが新興国でも、アメリカやイギリスの規制が「域外適用」される場合があることに要注意だ。

 

例えば、日本の大手エンジニアリング会社N社と大手商社M社の事例が有名だ。ナイジェリアにおけるLNGプラントの受注獲得のために両社が同国政府関係者に贈賄した事件では、アメリカ当局によりFCPAを適用されている。その結果、N社が21880万ドル、M社が5,460万ドルの巨額の制裁金が科せられた。

 

FCPAが日本企業に域外適用された事例は、上記を含めて6件ある(本稿執筆時点)。中南米におけるB社(タイヤメーカー。日本本社部長に禁固刑)、インドネシアにおけるM社(大手商社、上記ナイジェリア事件と同社)、南アフリカにおけるH社(総合電機)、中南米におけるO社(医療機器)である。いずれも巨額の制裁金が科せられるとともに、メディアでも大きく取り上げられ、社会的なイメージダウンにつながった。

 

日本企業以外では、2016年にブラジル政財界を中心に中南米やアフリカなど12ヶ国を舞台とした汚職事件でブラジルの大手建設会社にFCPAが適用され、26億ドル(約2,830億円)と過去最高額の制裁金が科せられた。

 

FCPAの執行件数は、2015年に20件だったものが、2016年には53件に増加している。2010年には74件も法執行している(不起訴含む)。

 

FCPAは、「送金にアメリカの銀行を使った」、「米国滞在中に贈賄に関する連絡を取り合った」などの事実があれば、アメリカ当局による域外適用が行われる可能性があるとされる。

 

なお、贈賄事件におけるアメリカ当局とは、主に司法省(DOJ)と証券取引委員会(SEC)である。SECが関係するのは、贈収賄は通常簿外で処理されるため会計不正(粉飾)と表裏一体だからである。DOJが刑事罰、SECが民事罰を追及する。

 

イギリスの贈収賄法(UKBA)では、贈収賄の相手方が公務員に限らず、民間人でも罰せられる。中国においても私人間の贈収賄も犯罪となるので注意が必要だ。

 

このように各国が贈収賄(腐敗・汚職)に関する規制を強化しているのは、贈収賄は、健全な経済発展を著しく阻害するという認識があるからだ。本来、ビジネスは製品やサービスの価格・品質により公正に評価されるべきであり、健全な競争こそ経済発展の源泉である。

 

せっかく自社が開発した優れた製品を外国で売ろうとしても、賄賂がなければ販売できないとなれば、より良い製品は普及せず、優れた企業が成長できない。製品やサービスの向上に努めるよりも、賄賂に走ってしまう。そうなると社会は発展せず、不平等や貧富の格差も拡大してしまう。

 

贈収賄は、世界の健全な発展にとって悪であり、根絶しなければならない。こうした世界的な認識の高まりから、1997年にOECDにおいて「外国公務員贈賄防止条約」が策定された。この条約に基づき先進諸国を中心に外国公務員贈賄の規制が強化され、日本でも1998年に不正競争防止法が改正・強化された(刑事罰の導入等)。

 

ただ、その後も国際的な反腐敗の流れが加速する中にあって、日本の捜査当局による摘発件数がわずかであり、OECDにより執行体制の甘さが指摘されている。本稿執筆時点で、不正競争防止法違反での立件はわずか4件である(電気設備工事K社、コンサルティングP社、自動車部品F社、コンサルティングN社)。

 

こうした国際的な批判を受け、警察では、各都道府県警察に外国公務員贈賄対策の担当者を設置。検察では、各特別捜査部に担当検察官を置くなど、捜査体制が強化されている。今後、今まで見逃されたような事案の摘発が増えることが予想される。

 

2015年には「外国公務員贈賄防止指針(経済産業省)」が改訂、2016年には同指針を補完する形で企業の実務指針たる「海外贈賄防止ガイダンス(手引)」(日本弁護士連合会)が策定された(20171月改訂)。

 

一方、アメリカ当局も、引き続きFCPAの「域外適用」の手を緩めないはずだ。なぜなら、米国企業に対してだけ贈賄規制を強化すれば、米国企業が国際競争上不利になるからである。従って、アメリカ当局は、今後も日本企業を含む他国企業の贈賄に目を光らせて監視し、厳しく規制を執行していくだろう。

 

 

このように国内外において贈賄規制の執行体制が強化されている今、まさに日本企業にとって贈賄防止体制の構築・見直し・強化の機運が到来しているといえるのだ。