反社会的勢力と詐欺は表裏一体


 世間では、平成19年6月19日の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ(いわゆる政府指針)で示された「暴力、威力と詐欺的方法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」が反社会的勢力の「定義」とされている。

 

 しかし、これは法律上の定義ではないし、民間企業(特にグローバル展開する企業)では、この政府指針よりも包括的な概念で反社会的勢力をとらえていることは「反社会的勢力の定義はない」で述べている通りである。

 仮に、千歩譲って、世間が言うように「暴力、威力と詐欺的方法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を反社の定義だとしても、この文言自体、あいまいであり、多義的である。

 例えば「詐欺的手法」という言葉を考えてみたい。何をもって詐欺的なのか。例えば、脱税。売上除外・経費水増しという詐欺的手法で国家を騙す行為であり、まさに「詐欺的」である。粉飾、相場操縦、不当表示も然り。

 従って、定義上、これらの経済犯罪を行った組織や人物は反社会的勢力に該当することになる。この議論はここでやめておこう。

 さて、刑法上の「詐欺」は人を騙して経済価値を交付させる反社会的犯罪行為であり、詐欺を犯す詐欺師や詐欺会社は反社会的勢力である。

 

 取引審査において、詐欺の犯罪歴や詐欺まがいの行為事績はもっとも警戒される「コンプライアンス・ヒストリー」である。詐欺的ビジネスの背後に暴力団関係者が関与している可能性もあり人脈上の懸念も生じる。

 

 詐欺のコンプライアンス・ヒストリーを有する者は、当然金融機関から資金を調達できない。たまに改名・偽名などを駆使してビジネスの世界で復活している者もいるが、しばらくするとその素性がめくれてしまう。

 

 マトモに銀行から金を借りることができない詐欺師(そのヒストリーを持つ者)は、暴力団関係者から資金を引っ張る。暴力団関係者も資金を運用したいわけだから、両者の利害は一致する。

 

 ただ金利は非常に高いと思われる。だから借りた方(詐欺師)は一気呵成に儲けて返済しようとする。そのために詐欺や違法行為を厭わない「異常な経済行為」を行う。

 

 例えば、パクリ屋(取り込み詐欺業者)である。最初は現金取引で徐々に信用を得て、その後、取引を膨らませるタイミングで締め支払(掛け)を要求してくる。そして大量に仕入れるだけ仕入れて、代金を払わずに逃げる。

 

 食品やトナーなどの消耗事務用品などが多いが品目は多岐に及ぶ。このパクリ屋ビジネスにおいて、最初は現金仕入となるから、どうしても種銭(軍資金)が必要になる。ホームページや事務所などの費用も工面しなければならない。

 

 この種銭(軍資金)は、闇金や暴力団関係者から調達せざるをえない。マトモな金融機関からお金を借りられないから当然だ。

 

  株式市場で暗躍する「反市場勢力」もこれに近い。仕手筋として悪名高ければ金融機関からの調達は難しいだろう。

 

 当然、資金背景はヤミとなる。高利の資金を背景としているから、短期間で暴利を稼ごうとする。

 

 ボロ株(超低位株)を買い占め「仕手株化」させる。頃合いを見て売り抜ける。チャートに異常性が見られるようになる。

 

 経営権を握って会社に増資をさせ、得た資金をそっくりそのまま反社関連企業に流出させる(架空増資)。さらには、手形の乱発や乱脈融資など異常の限りを尽くして反社へ資金を流し、乗っ取った企業を死に追いやる。

 

  このように詐欺のような「異常な経済行為」の裏には、反社会的勢力が潜んでいる可能性が高い。詐欺と反社会的勢力は表裏一体なのである。

 

H.Izumi