反社会的勢力の定義は存在しない

ゆえに、

反社会的勢力のデータベースも存在しない

アクティブ株式会社 泉博伸


最近、

 

「反社会的勢力の定義とは何ですか?」とか

 

「反社会的勢力のデータベース(リスト)」は存在しますか?

 

といったご質問をいただく。

 

【1】反社会的勢力の定義は存在しない

 

 結論から述べる。反社会的勢力の定義は社会的にも法律的にも決まったものがあるわけではない。

 

 定義がない以上、反社会的勢力のデータベースなるものも存在しない。

 

 反社会的勢力とは、各企業が自分たちで自分たちなりに定義づけるものだからだ。

 

 自社の経営理念、

 

 つまり「自社がどうありたいか?」「自社はどうあるべきなのか?」

 

 という理念に照らして、

 

 「取引相手としてふさわしくない反社会性を持つ相手かどうかを見極める」。

 

 それが「反社チェック」の目的である。

 

 

 なお、「自社がどうあるべきか?(理念)」は、

 

 世間、当局、従業員やその家族、株主、取引先からの

 

 自社に対する「期待」を反映して決めるものである。

 

 

 従って、「反社チェック」においては、

 

 そのような「自社への期待」=「社会の目線」を意識したうえで、

 

  ①このような性質をもつ相手と、

 

  ②このような取引をしたら、

 

  ③社会からの期待に背くことにはならないか?

 

  ということを「自問自答」しながら判断していくのだ。

 

 では、このような「反社チェック」に使用するための、

 

 お手軽な「反社会的勢力データベース」なるものが世間に存在するだろうか?  

 

 答え。そんなものは存在しないし、今後も存在するわけがない。(↓に続く)


【2】「反社会的勢力データベース」は存在しない

 

 検索してヒットがあれば反社会的勢力、

 

 ヒットしなければ反社会的勢力ではない(取引OK!)。

 

 こんなお手軽な反社会的勢力のデータベース(リスト)やシステムは存在しない。

 

 

 現在、一般事業者が反社チェックに使用しているデータベースの一つに、

 

 各都道府県にある暴力団追放センター(通称:暴追センター)が会員向けに

 

 提供する「暴力団構成員等として逮捕された者のリスト」がある。

 

 (掲載基準など詳細は暴追センターにご確認ください)

 

 たしかに、このリストは暴力団構成員等のリストとしては相当な規模のものと目されるが、

 

 全構成員をカバーしているわけではない。

 

 また、反社会的勢力の定義は無いと述べたが、確実に言えることは、

 

 反社会的勢力は、暴力団・暴力団構成員等に限定されるわけではないということだ。

 

 暴力団・暴力団構成員等だけが「反社会的勢力」ではない、

 

 社会(当局、世間、企業の取引審査担当者等)はそのように見ている。

 

 それを端的に示すのが、実務上、

 

 反社会的勢力の「定義のようなもの」として定着している政府指針の「文言」である。

 

 

 ■反社会的勢力の定義のようなもの

  

 (政府犯罪対策閣僚会議「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月)に記載)

 

 「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとら

 

  えるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知

 

  能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求

 

  といった行為要件にも着目することが重要である。」

 

 

 つまり、法律ではないものの、政府としての反社会的勢力のとらえ方は、

 

 「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」である。

 

 これが反社会的勢力の「定義のようなもの」として実務上よく使われている概念である。

 

  しかし、この文言は非常に曖昧である。

 

  例えば「詐欺的手法を駆使して」という部分を考えてみよう。

 

  「詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」は反社会的勢力であるから、

 

  「特殊詐欺グループ」およびその構成員は、疑いなく反社会的勢力に該当する。

 

  しかし、例えば脱税はどうか?

 

 「脱税」も、いわば国家や自治体への詐欺的行為である。

 

  詐欺的手法(売上除外、経費水増し)を駆使して、

 

  税金を誤魔化し、自己の経済利益を追求する

 

  きちんと税金を納めている人々を欺く行為でもある。

 

  従って、脱税した企業や個人も、

 

  上記の「定義のようなもの」の文言からすれば「反社会的勢力」に該当しうる。

 

  脱税企業と取引した会社は「反社会的勢力の加担者」と見られる可能性もある。

 

  同じように、「粉飾」は、株式投資家や金融機関、取引先などステークホルダーを

 

  欺く詐欺的行為である。

 

  詐欺的手法(会計操作)を駆使して経済的利益(資金調達等)を追求する会社。

 

  まさに、政府指針の文言での「反社会的勢力」にピッタリあてはまる。

 

  粉飾企業と取引をすれば「反社会的勢力の関係者」と見られる可能性がある。(↓に続く)


  ここで重要なことは、「脱税企業」「粉飾企業」等を「反社会的勢力」と

 

  見るかどうかは、貴社を含む「社会」がそれぞれの価値観で判断するということだ。

 

 

  たしかに、最も狭い意味の反社会的勢力である「暴力団員」かどうかは

 

  警察(当局)の認定の問題であろう。

 

  だが、「政府指針」のいうところの「反社会的勢力」に該当するかどうかは、

 

  捉え方次第、つまり各自の判断の問題だ。

 

  ある人は「脱税企業」「粉飾企業」を「バリバリの反社会的勢力」と見るのに、

 

  別の人は「反社会的勢力とまでは言い過ぎ」と考える。

 

 

  このような社会の見方を分析しながら、

 

  自社の経営理念に照らして、自ら判断していくのが

 

  反社チェック(見極め)なのだ。

  

  ちなみに、某銀行が「反社会的勢力」との取引に絡んで処分された際の

 

  金融当局の判断を分析すると、

 

  「反社会的勢力」は、暴力団構成員だけにとどまらず

 

  より広く捉えていることが分かる。

 

  このような当局の過去の処分事例やマスコミにおける報道のされ方、

 

  ネットユーザーの論調などもよく研究しておくことが、

 

  反社チェックの実務担当者には求められる。

  

 つまるところ、

 

  「反社会的勢力」かどうかの見極め基準は

 

  「警察の認定」といった問題に留まるはずがなく、

 

   社会におけるレピュテーション(評判、イメージ)や社会的責任(CSR)の観点なのだ。

 

  

  ブランドのある一流企業は、このレベル感で反社チェックを行うべきだし、

 

  実際にそうしている企業が多いと思う。

 

【3】実務上どうしているのか?どうするべきなのか?

 

 検索してヒットすれば反社会的勢力、

 

 ヒットしなければ反社会的勢力ではない。

 

 そんなお手軽な「反社会的勢力データベース(リスト)」は存在しない。

 

 そのような「お手軽システム」がない状況の中で、

 

 民間事業者として一体何ができるのだろうか?

 

 あるいは何をすべきだろうか?

 

 

 二つあげておこう。

 

 第一に、世の中の森羅万象(社会事象)が凝縮した「記事データベース」を活用すること。

 

 第二に、「現場の感覚」を磨いていくこと。

■森羅万象を体現した新聞雑誌等の膨大な「記事データベース」を活用する

 

やることは単純である。世の中の神羅万象を体現しているともいうべき

 

新聞や雑誌の記事データベースを活用する。

 

チェック対象社名等を検索バーに入力し、

 

一定の絞り込みのためのネガティブ・キーワード

 

(いわゆる反社キーワード。暴力団・反社・詐欺・脱税・・など)

 

を設定したうえで、

 

検索ボタンを押し、そのチェック対象に関して反社キーワードに

 

該当する記事がないかどうかをチェックする。

 

絞り込みのキーワード(反社キーワード)を設定するのは、

 

コンプライアンスと無関係な普通の記事までピックアップされてしまうのを

 

防ぐといった形式的な意味だけからではない。

 

 

絞り込みキーワード(いわゆる反社キーワード)の設定は、

 

反社会的勢力リスクの排除の実務の中で最も重要なプロセスであり、

 

丁寧にやらねばならない。

 

冒頭、反社会的勢力の定義はないと述べた。

 

定義は、自社が経営理念や社会の目線を踏まえて

 

自ら決めるべきものだとも述べた。

 

その具体的かつ実務的なプロセスが、

 

この反社チェックのキーワード(反社ワード)選定なのである。

 

自社が自社の理念や方針に照らして、

 

取引先等に帯びてほしくない(望ましくない)と考える性質は何か?

 

これを丁寧に議論しながら決めていく。

 

このプロセスには時に営業部門も含めるべきだ。

 

その過程で「反社勢力リスクに対するリスクマインドが醸成される」からだ。

 

世の中で起きている不正・事件・詐欺などへの関心を高めることができる。

 

この反社ワードの選定をいい加減にやる会社は、

 

形式的に反社チェックをやっている会社として見られかねない。

 

 

反社会的勢力に関わる問題で某会社が「決意表明」を出した。

 

それは大いに結構だ。

 

ただ、本当にその「決意」を「実務レベル」に落とし込むほどに、

 

つきつめて対策を講じたかは、

 

このプロセス(反社ワードの選定)に、改めてどれだけ真摯に取り組んだかが

 

試金石になると思う(某会社が記事データベースによるチェックをしているとした場合)。

 

所属するメンバー(数千人?)全員で議論して決めてもよいくらいの

 

重要なプロセスだ。

 

もっとも、実務的には記事データベース会社の提供するテンプレートをベースにしてもよい。

 

なぜなら記事データベース会社は多数の会社にサービスを提供しており、

 

どのようなキーワードが社会的に望ましくないと考えられているかのデータを蓄積しているはずだからだ。

 

 

社会の目線の平均値が反社ワードのテンプレートとして用意されている。

 

それをベースに、自社で喧々諤々に議論してくのが現実的だろう。

 

なお、社会の目線や価値観は流動的であるし、自社の地位や事業内容なども変化していく。

 

ゆえにこれは絶え間ない作業となる。常に見直しが必要だ。 


■「現場の感覚」を磨いていくこと。

 

反社会的勢力とは捉えどころのないものだが、

 

少なくとも「暴力団関係者」や「詐欺グループ」に関与しないための

 

「現場の感覚」のブラッシュアップを図っていくことが重要である。

 

 

そもそも、記事データベースに出てくるような人物は、表に出てこない。

 

だからこそ、「現場の感覚」が重要となる。

 

 

直に取引相手と接する営業パーソンが、

 

「美味しい話だけど、なんだかうま過ぎるな。あやしいな」と警戒できるか?

 

各種情報源や調査書を分析する審査パーソンが、

 

「特段悪い情報もないが、なんとなく動きが不自然だ」と警戒できるか?

 

このような「感覚」を大切にすることが何より重要である。

 

そして、その素朴な「疑念」を風通しよく議論できる「風土」も重要だ。

 

「あいつは考えすぎ。根拠もないのに警戒しすぎ。我が社の発展を妨害する輩」

 

このような風土は駄目である。

 

効率化至上主義の流れの中で「チェックリスト」方式が横行している。

 

個人的には「チェックリスト」は好きではない。

 

「チェックリスト至上主義」に陥り、それを埋めることしか頭が働かなくなり

 

リスク回避にもっとも重要な「動物的な感覚」が発動しなくなる。

 

とはいえ、「動物的な感覚」を磨くうえでも、過去の事例からいえる見極めポイントを整理し、

 

頭に入れておくことは損にはならない。

 

 

ここでは「動物的な感覚」について、以下だけ述べておく。

 

①「不自然さ」への感度を高めること。

 

 これが営業パーソンにも審査パーソンにも最も重要である。

 

 例えば、不自然にカネや資産を持っているのは怪しい。

 

 急においしい話、うまい話が舞い込んでくるのも怪しい。

 

 このような感覚を身に着けることである。

 

 信用調査の修羅場を踏んだ調査パーソン・審査パーソンならば経験したことがあるはずだ。

 

 普通は見せるのを嫌がる決算書を何も言わないのに3期分を用意して差し出してくる。

 

 そのような場合は、粉飾どころか根本的にでっち上げの決算書である可能性もある。

 

 税務署の収受印が偽造されているといったこともある。

 

 このような場合、決算書の財務分析(=理性)など何の役にも立たない。

 

 「上手く事が運びすぎている」という「動物的な感覚」だけが頼りとなる。

 

②地位や知名度があるからといって直ちに安心しては駄目

    

 地位や知名度がある人は反社会的勢力の箔付けに利用されやすい。

 

 弱みに付け込まれ、あるいは接待攻勢などで

 

 すでに反社会的勢力に取り込まれている可能性もあるかもしれない。

 

 既に取り込まれてしまった地位や知名度がある者から「人を紹介するよ」「ビジネスを紹介するよ」

 

 などと接近してくる可能性もある。

 

「すごい人から声がかかった」などと感激して、何も考えずに話に乗ってはだめだ。 

 

③名目(肩書)と実体(実態)との整合性に最大限注目する

 

 相手が何をやっている会社・人物なのか。語っている職業・地位とその人物が醸し出す雰囲気・オーラが

 

 マッチしているかなりすましではないか? 社長といっているけど誰かの手下のような感じではないか?

 

 裏で操っている人物がいるのではないか? 事務所に「臭いがない」。実体のないハコではないか?

 

 この感覚は、実際にその場に臨場し、その人物に対峙してみないとわからない。まさに動物的な感覚である。

 

 

上場企業クラスが反社会的勢力が背後に潜む詐欺事件に巻き込まれたケースなどを見ると、

 

このような「動物的な感覚(あたりまえの警戒心)」を組織として徹底できなかったことが敗因といえる。

まとめよう。

 

反社会的勢力の社会的・法律的な定義は存在しない。

従って、「反社会的勢力のデータベース」も存在しない。

やるべきことは、社会の神羅万象を体現した記事データベースに対して、

自社が真剣に考えた「絞り込みワード=自社の考える望ましくない性質」を設定し、

チェックしてみる。

これと併せて「現場の感覚」を磨く。重要な点は「不自然さ」に気が付くこと。