反社会的勢力の定義は存在しないゆえに、反社会的勢力のデータベースも存在しない


反社会的勢力の定義は、社会的にも法律的にも決まったものがあるわけではない。

 

よく「政府指針」を持ち出して、これが「反社の定義だ」とする主張が散見される。

 

しかし、民間の取引審査の世界で、今どき「政府指針」程度のリスク管理をしていては、コンプライアンス(社会からの期待や要請に応じること)を徹底できない。

 

なぜなら、政府指針のいう反社とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人・・・」であり、暴力団や詐欺集団等々を主な想定としている。

 

しかし、企業の社会的な責任の観点からは、例えば、有害化学物質を垂れ流す環境破壊企業や強制労働・児童労働搾取を行う人権侵害企業、贈収賄、談合、脱税といった反社会的な行為を行う主体も、自社のサプライチェーンや販路から排除していくことが要請されている(SDGSやCSRの観点)。

 

このような社会要請に応えていく(=コンプライアンス遵守)ためには、取引を排除すべき対象(反社会的勢力)の”定義”として「政府指針」程度では全く役に立たない。

 

もっとも、自社が何をもって反社的ととらえるかは自由であり、最低限レベルの「政府指針」に沿ったリスク管理を行っている企業もある。それはそれでよい。

 

しかし、その程度の企業だと評価されてしまうことは覚悟しなければならない。なお、個々の案件における、政府指針に沿った反社の「見極め」それ自体は決して容易でないことを付言しておく。

 

反社の定義なるものは存在しないが、現代の実務レベルに即して敢えて言えば、「社会の秩序・安定・公正、経済活動や市民生活の安心に脅威や危害を加えるような勢力」といった表現だろう。

 

名だたるグローバル企業のCSR方針等でも、反社会的勢力をそのように規定していることが多い。

 

民間企業が政府指針よりも高いレベルでコンプライアンスを徹底しなければならない理由は、そうしないと、倒産するからである

 

民間企業が、ひとたび不適切な相手と不適切な取引をすれば、信用やブランドが棄損し倒産に直結する。社員は職を失う。

 

苛烈な市場の競争原理にさらされている民間企業が、コンプライアンスやリスク管理の重要性を痛感し、本気で取り組んでいるからこそ、もはや政府指針の「定義」では物足りず、より包括的な概念でとらえるようになっているのだ。 

 

■反社チェックからコンプライアンス・チェックへ 

 

何をもって、取引を遮断すべき「反社会的勢力」と考えるかは、各企業が自分たちで自分たちなりに定義づけるものだ

 

自社の経営理念、つまり「自社がどうありたいか?」「自社はどうあるべきなのか?」という理念に照らして、取引相手としてふさわしくない反社会性を持つ相手かどうかを見極める。それが反社チェックの目的である。

 

最近では、政府指針レベルの最低限のチェックを「反社チェック」、より広範かつ高度なチェックを「コンプライアンス・チェック」と区別する場合もある。 暴力団や準暴力団に関係するか等のチェック(これも難しいが)だけでなく、より広範なコンプライアンス上の問題もチェックする、という意味である。

 

自社がどうあるべきか?(理念)」は、世間、当局、従業員やその家族、株主、取引先からの自社に対する「期待」を反映して決めるものである。従って、「反社チェック」「コンプライアンスチェック」においては、そのような「自社への期待」=「社会の目線」を意識したうえで、

 ①このような性質をもつ相手と、

 ②このような取引をしたら、

 ③社会からの期待に背くことにはならないか?

 ということを「自問自答」しながら判断していくのだ。

 

 

では、このような「反社チェック」「コンプライアンスチェック」に使用するための、お手軽な「データベース」なるものが世間に存在するだろうか?そんなものは存在しないし、今後も存在するわけがない。

 

■「反社会的勢力データベース」は存在しない

 

検索してヒットすれば反社会的勢力、ヒットしなければ反社会的勢力ではない(取引OK!)。

 

こんなお手軽な反社会的勢力のデータベース(リスト)やシステムは存在しない。

 

現在、一般民間企業が反社チェックに使用しているデータベースの一つに各都道府県にある暴力団追放センター(通称:暴追センター)が会員向けに提供する「暴力団構成員等として逮捕された者のリスト」がある。

 

たしかに、このリストは暴力団構成員等のリストとしては相当な規模のものと目されるが、全構成員をカバーしているわけではない。

 

また、反社会的勢力の定義は無いと述べたが、確実に言えることは、反社会的勢力は、暴力団・暴力団構成員等に限定されるわけではないということだ。暴力団・暴力団構成員等だけが「反社会的勢力」ではない、

 

次に見る政府指針でも、そのように規定されている(なお、政府指針は法律ではない)。

 

 ■反社会的勢力の定義のようなもの

  

政府犯罪対策閣僚会議「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月)の中で、

 

「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。」

 

 

つまり、法律ではないものの、政府としての反社会的勢力のとらえ方は「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」である。

 

これが反社会的勢力の「定義のようなもの」としてまかり通っているものである。

 

一見、明快に記述されているが、しかし、この文言は非常に曖昧である。

 

例えば「詐欺的手法を駆使して」という部分を考えてみよう。「詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」は反社会的勢力であるから、「特殊詐欺グループ」およびその構成員は、疑いなく反社会的勢力に該当する。

 

しかし、例えば脱税はどうか?「脱税」も、いわば国家や自治体への詐欺的行為である。英語では脱税をtax fraudという。fraudは詐欺の意味である。すなわち脱税とは税に関する「詐欺」であり、脱税する会社は詐欺会社である。海外ではそう扱われる。

 

詐欺的手法(売上除外、経費水増し)を駆使して、税金を誤魔化し自己の経済利益を追求する。きちんと税金を納めている人々を欺く行為でもある。従って、脱税した企業や個人も政府指針の「定義のようなもの」の文言からすれば「反社会的勢力」に該当しうる。

 

脱税企業と取引した会社は「反社会的勢力の加担者」と周囲から見られる可能性もあるし、当局により反面調査の対象にされかねない。

 

「粉飾」も同じである。粉飾は株式投資家や金融機関、取引先などステークホルダーを欺く詐欺的行為である。

 

詐欺的手法(会計操作)を駆使して経済的利益(資金調達等)を追求する会社。まさに、政府指針の文言での「反社会的勢力」にピッタリあてはまる。

 

粉飾企業と取引をすれば「反社会的勢力の関係者」と周囲から見られる可能性がある。

 

 

重要なことは「脱税企業」「粉飾企業」等を「反社会的勢力」と見るかどうかは、貴社を含む「社会」がそれぞれの価値観で判断するということだ。

 

たしかに、最も狭い意味の反社会的勢力である「暴力団員」かどうかは警察(当局)の認定の問題であろう。

 

だが「政府指針」のいうところの「反社会的勢力」に該当するかどうかは捉え方次第、つまり各自の判断の問題だ。

 

ある人は「脱税企業」「粉飾企業」を「バリバリの反社会的勢力」と見るのに、別の人は「反社会的勢力とまでは言い過ぎ」と考える。

 

このような社会の見方や温度感を分析しながら、自社の経営理念に照らして、自ら判断していくのが反社チェック(見極め)なのだ。