反社チェックの危険な「全体主義」思考 

「自動化」はNGワード


反社チェックに用いられるリスト(データベース)は、あくまで総合判断の一材料であるべきであり、これによって「自動的」に判断を下そうとする思考や行為は危険である。

 

反社チェックやAML(アンチ・マネー・ロンダリング)に使用される某データベースに関し、海外で大々的な訴訟事件や抗議活動が起きている。

 

某NGOや宗教団体の関係者が、根拠なくテロ組織にリンクしているとしてデータベースに掲載され、銀行取引を拒絶されたと抗議している。

 

もちろん、その銀行が他の調査などを「主体的」に実施し、銀行の「総合判断」として、当該人物や組織と取引することは適切ではないと「主体的」に判断したなら問題はない。

 

そうではなく、外部の民間データベース会社が作成するリストを「盲信」し、そのリストに載っているからといって「何も考えず」「自動的に」取引判断を下すようであれば、それは企業としての主体性を著しく欠いており問題である。

 

個々の企業の主体性を超越して「反社リスト」が存在するというのは非常に恐ろしいことである。

 

「反社チェックや信用調査は手間がかかる。いちいち各企業でやらずに、社会的に統一化されたリストやスコアを作ればいいのに。そうすればそのリストに照合するだけで手間を自動化できる」

 

などと、平然とぼやく実務家?もいる。

 

これは非常に恐ろしい発想だ。

筆者はこのような思考は危険な全体主義につながるものと考える。

 

取引の可否判断を自らの意思と責任で行わない企業は、もはや自由主義国における経済活動体とはいえない。

 

相手との取引における信用リスク、法的リスク、レピュテーションリスクなどを、自ら「主体的」に評価して行動し、その責任を負うのが我々自由主義経済の原理だ。

 

こうした自由主義の原理に反し、外部主体が作成するリストやスコアに完全に依拠して判断を行おうとする発想。しかも社会的に統一されたものまで望んでいる。

 

こうした危険な発想の行きつく先は「社会信用スコア」の世界である。「国家」が社会全体の秩序維持を名目に個人や企業を評価する。なるほど確かに取引相手を見極める手間が省けて効率的だ。企業(ユーザー)は与えられた評価に依存して(洗脳されて)取引を行えばいい。楽だ。楽だからユーザーもこのシステムを受容する。

 

 

だが、何故国家がそうした評価制度を作るのか?よく考えるべきだ。

こうした仕組みは自由主義の原理に明らかに反している。

 

 

なお、別コラムで述べているように、そもそも反社会的勢力の「定義」なるものは存在しない。定義がない以上、完全なリスト(データベース)も作ることはできない。(参考コラム→反社会的勢力の定義は存在しない)。

 

 

審査実務においては、商用データベースに載るような者が前面に出てくる案件はそう多くない。犯罪履歴などの無い役員を就任させている「フロント会社」が登場してくるのだから、リストチェックだけで取引OKの判断をすると大失態につながるリスクがある。

 

つまり、特定のデータベースに依拠する主体性なき「自動化」の志向は、あらゆる意味で危険である。

 

以上を踏まえれば、反社チェックの運用フローにおいては、必ず「自社としてどう判断したか」の「人間」の判断プロセス(手間)を介在させなければならない。いくら面倒でも自由主義国において活動する企業にとって欠くことのできない工程だ。

 

この手間を省きたいなら全体主義の国だけでビジネスをすればいい。主体性を捨てて全部他人(お上)に決めてもらえばいい。そのほうが楽だろう。お望みどおり自動化・効率化が達成できるではないか?

 

・・・反社チェックや与信判断の「自動化」の先に全体主義の赤い影を感じるのは筆者だけだろうか。

 

余談ながら、外部調査会社等の「評点」をそのまま鵜呑みにして与信管理・取引先管理を行うような運用は主体性に欠ける。まともな企業は自社としての主体的な判断基準、すなわち取引先に対する独自の「社内格付」を整備している。中小企業では無理かもしれないが、相応の大企業で取引先に対する「社内格付」が整備されていないような企業は自由主義国における一流企業とは呼べない。

 

話をもどそう。

 

反社チェックに使用する商用データベース自体のレピュテーション・チェックもしておくべきであろう。そのデータベースに対して世界中でどのような訴訟や抗議が行われているか調べた上で採用を検討すべきであろう。

 

最近では、自社がコンプラを強化していることを対外的にアピールせんがために、使用するデータベース名を公表しているケースも散見される。様々な意味で危険で軽率な行為だ。そのデータベースに関するリスクやトラブル等を調べた上での行為なのだろうか。「人権団体」につけこまれる隙を自ら公表しているだけではないか。そもそも使用するリストがバレていれば、それに載っていない人物を表に立てて相手は接近してくるだろう。自らの手の内を明かすこうしたPRはリスクマインドの欠落した軽薄な行為に思える。

 

特に海外の場合、リスト掲載には国際紛争といった政治的側面が多分に影響しうる(元ネタの政府公表リストが政治色を帯びている可能性がある)。こうした分析無しに、リストに基づいて「自動的」「効率的」に判断できると錯覚しているとすれば、会社としての実力に疑問符がつくし、審査パーソンとしても底が浅すぎる。プロフェッショナルとして生き残ることは難しいだろう。

 

アクティブ株式会社 泉

 

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