反社チェックのメリハリづけ 【リスクベース・アプローチ】

膨大数の取引先に対する反社チェック調査の深さをどのようにルール付けするか?

(弊社代表プレゼン書き起こし)




【ご挨拶とセミナーの概要】

 皆様、こんにちは。わたくしは、アクティブ株式会社で代表をしております泉と申します。この度は、お話をさせて頂く機会を頂戴し誠にありがとうございます。

 このミニセミナーでは、取引先が反社会的勢力に関与しているかのチェック、いわゆる反社チェックについてお話させていただきます。反社チェックと一口にいっても、調査の深さは、さまざまです。すべての取引先について詳しい調査を実施するのが理想ですが、現実はそうもいきません。

 実務的には、メリハリをつけて反社チェックを行っていく必要があります。本セミナーは、メリハリをつけるための基準、つまり、どのような基準で、調査の深さに強弱をつけていくべきかをテーマとさせていただきます。

 

【セミナーの位置づけ】

 まず、このミニセミナーの位置づけでございます。

 いわゆるリスクマネジメントのサイクルは、皆様もよくご存じだと思われますが、一般に次ようなプロセスで行われます。まず、どのようなリスクがあるのかを洗い出し、特定します。そして、そのリスクの大きさを測定・評価し、その対応策を決めて実行していきます。

 このリスクマネジメントのサイクルのうち、このセミナーは、リスクの測定と評価のプロセスにフォーカスします。リスクの測定・評価にあたって、いかにしてメリハリをつけてチェックしていくかがテーマとなります。

 取引先が反社会的勢力に関与していないかのチェック、つまり反社チェックは、すべての取引先について詳しく調査できればそれに越したことはありません。

 しかし、現実は、人員や予算、時間的な制約もありますので、メリハリが必要となります。そのためには、より、重点的にチェックすべき取引先と、相対的に簡易なチェックで済ませる取引先をふるい分ける基準が必要となります。本セミナーは、そのメリハリのためのふるい分けの基準をテーマとしております。

 

【調査のトレーニング・プログラム】

 なお、あらかじめ申し上げておきますが、このミニセミナーでは、個別の企業などを調査・チェックする手法や手順は、扱っておりません。

 反社チェックは、可能であれば、まずは自社で行うべきものです。調査会社に依頼するとしても、調査会社がどのような調査を行うのかを評価できる人材は必要となります。

 このような人材育成やスキルアップのために、弊社では、反社チェックに従事される方を対象に、具体的な調査のやり方について、実例演習を含めたトレーニング・プログラムをご用意させていただいております。

 詳細はお問い合わせいただければ幸いです。


 

【リスクベース・アプローチ】

 本セミナーは、反社チェック調査にメリハリをつけるための基準をテーマにします。その基準をつくるためのベースとなるのが、「リスクベース・アプローチ」でございます。

「リスクベース・アプローチ」は、何やら難しく聞こえますが、考え方はシンプルです。つまり、よりリスクの大きそうな対象に、より多く調査のためのリソースを投入していこうという考え方です。

 金融機関のマネーロンダリング対策や、会計監査の分野で取り入れられております。言葉は聞いたことはなくても、多くの一般企業の与信管理などにおいてベースとなっている考え方でございますので、難しいものではございません。具体的な内容は、後ほど見ていきます。

 

【反社会的勢力とは】

 反社リスクとは、反社会的勢力と関わってしまうことにより自社に損害が及ぶリスクです。

 では、そもそも「反社会的勢力」とは何なのでしょうか?実は、明確な定義はございません。最近では契約書において、反社会的勢力に該当または関与した場合は契約は解除されるという条文が盛り込まれます。

 この条文には、反社会的勢力の種類のようなものが羅列されています。しかし、このうち暴力団やその構成員は別として、こうした属性を示す用語に明確な定義があるわけではございません。警察白書等で定義のようなものが書いてあり統計も取られていますが、これらの定義に拘泥する実務的な意味はあまりないと考えます。

 

【望ましくない相手かどうか】

 反社会的勢力とは、結局のところ、自社がどのようにとらえるのか、によります。

 自社がその相手と取引することにより、間接的にも社会にとって望ましくない影響を与えると考えるならば、自社としてはその取引先を反社会的勢力ととらえて判断していくべきだと思います。

 相手が暴力団にかかわりのある企業であれば、取引することにより、間接的にも、暴力団の活動維持に貢献してしまう。これはわかりやすい話です。相手が詐欺行為を行う会社であれば、自社が直接の損害を受けなくても、取引を通じて詐欺会社の活動維持に役立ってしまえば、それによって財産を収奪されてしまう人が増えてしまう。

 また、途上国等の取引先が児童を労働搾取するような企業であれば、取引を続けることにより、結果として、自社が労働搾取を容認している会社となってしまう。

 贈賄を行うような企業と取引を継続することは、結果として、その国を腐敗させ、貧富の格差を広げてしまう。

 環境破壊を平気で行うような会社と取引することは、自社が間接的にも環境破壊に加担しているとみなされかねない。

 このような社会的に望ましくない行為に加担しないためにも、相手先の素性をきちんと調べる必要があるのです。

 単に暴力団に関わるかどうかだけではなく、より広く反社会的勢力をとらえて、自社の理念と照らし、自社が取引すべき相手なのか?これをチェックするのが、現在、そしてこれからのあるべき反社チェックといえます。

 

【あるグローバル企業の定義】

 グローバルで活躍しているある企業では、自社が使用する原材料や製品の調達方針として、サプライヤー向けに「社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力並びに団体とは関係を持たないでください。」と公に明示しています。

 つまり、この企業では、反社会的勢力を「社会の秩序や安全に脅威を与えるもの」と広くとらえているわけです。自社の取引先に対し、このような反社会的勢力とかかわりを持たないでください、こう要請しているわけです。

 


【反社リスクとは ①評判リスク】

 反社リスクとは、自社が反社会的勢力と関わることによって生ずるリスクです。

 反社リスクは、大きく2つに大別されます。

 ひとつは、反社会的勢力に利益や便益を与えていると世間からみなされれ、自社の評判が棄損するリスクです。結果として反社会的勢力に加担しているとみられ、いわゆる「共生者」だと判定されてしまうリスクです。

 このことにより、自社の評判が損なわれ、ブランドイメージが低下したり、株価が下落したり、求人しても人が集まらないといった事態が生じかねません。

 金融機関などは、貸付先が反社会的勢力に関わっているとみなせば、融資を引き揚げるといった行動をとるはずです。そうなると資金繰りが苦しくなり、自社が倒産する事態さえ招きかねません。実際、過去には、ある不動産会社が、暴力団と関係があるとみなされた企業をビジネスに利用したことにより、銀行から融資を拒絶され、破綻した事例もあります。

 

【反社リスクとは ②身の危険のリスク】

 もうひとつの反社リスクは、身の危険のリスクです。暴力団と関わりのある企業や人物と取引関係をもち、一度でも利益や便益を与えてしまった場合、その関係を断ち切ろうとすると、相手が逆上し、暴力団の威力を背景に自社の従業員を脅迫したり、暴力的な危害を加えてくることも想定されます。みかじめ料を断った飲食店が脅迫を受けたり、物を壊されたりする事例も多くみられます。

 

【ジレンマに陥らないために】

 反社リスクの難しい点は、この評判リスクと身の危険のリスクがジレンマを生むことです。身の危険を案ずるあまり、ずるずると関係を継続してしまい、その結果、抜き差しならない状態になり、評判リスクが増大していく。

 一方、評判を最優先して、強引に関係を断ち切ろうとすると、逆上され、身の危険のリスクが増大する。

 自社やその従業員をこのような難しい局面に陥れないためにも、できるだけ疑わしい相手とは、最初から関係を持たないことが重要です。このことからも、特に、新規取引時には、相手が反社会的勢力にかかわりがあるどうかのチェック、いわゆる反社チェックに力を注ぐことが重要なのです。

 


【反社リスクと与信リスクの相違】

 反社リスクは、与信リスクや在庫リスクといった、いわゆるビジネスリスクとは性質を異にします。

 与信リスクを例にとりましょう。与信リスクとは、狭い意味では売掛債権が回収できないリスクです。例えば皆さんの会社が、ある販売先に1億円の商品を掛け売りしたとしましょう。与信リスクとは、この販売先の財務状態が悪化するなどで、代金の1億円の支払いを受けられなくなるリスクです。

 この与信リスクが実際に発生した場合、債権の全額が回収できない最悪の場合の損失額は1億円です。これはつまり、与信リスクの場合、あらかじめ損失額の上限が計算できることを意味します。在庫リスクも同じです。例えば、100万円の商品を仕入れても全く売れなかった最悪の場合を考えましょう。倉庫料などを無視すれば、この場合のロスは100万円です。これは事前に見積もることができます。

 一方、反社リスクは、評判リスクと身の危険のリスクのことです。これらは損害の上限をあらかじめ算定できるものではありません。評判リスクについて時価総額の変動額を代理変数にするといったアイディアも考えられますが、あまり実務的とは思えません。

 したがって、反社リスクの損害の上限額はあらかじめ計算できないものとして考えるのが現実的です。

 このように、反社リスクと与信リスクは、そのリスクの要因が、取引相手に内在する点では共通していますが、リスクの影響の面では、性質をまったく異にしています。

 したがって、いわゆるリスクマネジメントのプロセスにおける「リスクの評価」の基準も異なってくるのです。

 

【与信リスクの評価】

 比較のために、まずリスクマネジメントにおける与信リスクの評価方法を見てみましょう。

 与信リスク管理においては、縦軸を倒産の起こりやすさ、つまり倒産確率、横軸を与信額や取引額とした座標軸によるリスク評価が主流です。

 この図では、右上にプロットされる取引先は、取引額も大きく、かつ倒産確率も高いので、より重点的に管理をする必要があります。一方、左下に位置する取引先は、取引額も小さく、かつ倒産確率も小さいので、相対的に簡易な管理のみ行っていく。

 このように、倒産する確率と、倒産した場合の影響額、与信額によって、優先順位をつけてメリハリの効いた管理を行うこと。これを、リスクベース・アプローチによる与信リスク管理といいます。

 



【反社リスクの評価基準 ①与信管理のようにはいかない】

 反社リスクの評価、つまり調査の深さのメリハリ付けは、与信リスクのように金額ベースでは原則として行うべきではないと考えます。

 なぜなら、反社リスクによる損失は、与信リスクのように、取引額や債権額が上限となるわけではないからです。たった数十万円の取引でも、反社会的勢力への利益供与や贈賄行為としてみなされれば、マスコミ等によって大々的に取り上げられて自社の評判や信用が大きく棄損してしまいます。

 金額が少ない取引だからチェックをしなくてよい、となれば少額の取引の中にリスクの高い取引先が潜んでしまうことさえ懸念されます。このように、反社チェックのメリハリ付けにおいては、取引金額を基準とすることは原則として避けるべきであると考えられます。

 

【もれは生じてませんか?】

 与信管理における審査が、反社チェックも兼ねているような場合は、注意が必要です。

 とういうのも、先ほど見たように与信管理の場合、金額を基準とした、リスクベースアプローチとなりますので、与信額が少額であれば簡易調査で済ませたり、ほとんどノーチェックで与信枠を設定したりするケースがあります。

 ところが、反社リスクは、金額は関係ありませんから、通常の与信審査によるチェックが十分に及んでない可能性があります。一度も与信審査をしたことがない取引先が、実は反社会的勢力である、という懸念もあります。

 

【反社リスクの評価基準 ②反社チェックの対象外】

 反社リスクは、量的に計測ができないので、相手の属性や取引の質的な側面に着目してリスクの高さを評価してメリハリをつけていきます。

 全取引先をもれなく反社チェックするとうのが理想ですが、実務上は、人員や予算、時間の制約がありますので、一定の要件に当てはまる取引先は、反社チェックの対象外とするといった基準を設けるのが得策です。

 具体的な例としては、次のような対象外の基準が考えられます。第一に東証1部企業およびその子会社であること。第2に大手信用調査会社が直近半年以内の調査で60点台後半をつけていること。第3に公的な組織であること。

 もちろん、東証1部企業であっても、例えば業績悪化により株価が低迷し、反社会的勢力をバックとした組織に株を買い占められて乗っ取られるというリスクもあります。そのような場合は、例えば、継続企業の前提に注記がついているような経営危機にある東証1部企業は、反社チェックを除外しない、などの条件をつけるのです。

 東証1部企業は、証券取引所が、反社関与を含むより厳格な審査によって上場維持させていますので一定の信頼をおくことができますし、その子会社であれば同等程度の信頼を置くことができます。

 大手の信用調査の評点ですが、例えば未上場企業であっても、60点台後半をつけていれば、東証1部クラスの優良企業とみなすことができます。もちろん例外はあるかもしれませんが、リスクベースの観点からは、これらの企業よりも、それ以外のよりリスクの高そうな取引先を調べることにリソースを割くべきです。

 

【反社チェックの評価基準 ②調査レベル】

 本セミナーでは、具体的な調査の手法や内容は割愛させていただいております。ここでは仮に、調査が深い順から、特別調査、標準調査、簡易調査と3つのレベルを設定するとします。

 具体的にどんな調査メニューとするのかは、予算や求められる納期などを勘案しながら自社において合理的に決めていくべきです。弊社ではその設計のお手伝いもしております。調査の深さに3つのレベルを設定し、リスクが相対的に高いと思われる取引先には、より高レベルの調査を実施していくのです。

 

【反社リスクの評価基準 ③リスク評価の要素】

 反社チェックのメリハリをつけるための基準として、例えば、ここに挙げた5つの評価要素のうちひとつにでも該当事項があれば、少なくとも標準的なレベルの調査を行う、といった設計が考えられます。

 反社リスクの大小を評価するための要素は、第一に、取引内容、第二に取引相手の業種、第三に、取引に至った経緯、第四に関係解消の困難性、第五に自社内のクレーム情報です。それぞれ見ていきましょう。

 

【反社リスクの評価基準 ①取引の内容】

 まず、取引の内容です。反社会的勢力に利益を供与してしまうリスクを考慮するうえでは、自社から現金が出ていく支出先や仕入先のほうがリスクが高いと考えるべきです。例えば、交際費、寄付金、紹介手数料やコンサルタント料などの支出は、製造の外注委託よりも内容が不明朗なことも多く、リスクが高い取引内容と考えられます。

 販売先においても、他の顧客と比較して値引き幅が異常に大きいなど特別な便宜を図っているような取引先には注意が必要です。取引内容が、例えばここに挙げた内容に該当するようであれば、少なくとも標準レベルの調査を行う、といった基準の設計です。

 

【反社リスクの評価基準 ②業種】

 第二に、業種です。例えば、ここに挙げたような業種は、暴力団が関連する事件・事例として警察白書等で記載されている業種です。不動産、建設、産廃処理・収集運搬、労働者派遣、貸金業(無登録)、投資関連、経営コンサルタント、飲食業などです。

 取引先が、このような業種に該当すれば、標準レベルの調査は実施するといった、基準の設計が考えられます。

 


【反社リスクの評価基準 ③その他】

 そのほか、取引に至った経緯、関係解消の難しさ、自社内のクレーム情報の有無も、調査のレベルを決めるうえで重要な要素となります。

 まず、取引の経緯です。一般に、新規取引先との接点において、自社からのアプローチよりも、相手からのアプローチや紹介取引によって接点を持つほうが、リスクが高いと考えられます。相手が自社を狙い撃ちにして、通常の取引以外の何らかの意図をもって接触してくることが考えられるからです。

 次に、関係解消の難しさとは、もし相手が反社会的勢力だと取引後に判明した場合の関係の切りにくさです。例えば、その相手との取引が、自社の基幹業務に関わる場合、すぐには変わりが見つからないこともありえます。抜き差しならない関係になる取引の場合は、リスクが高いので簡易な調査では済ませない、といった設計です。

 それから、クレーム情報です。自社の顧客情報に、悪質なクレームや不当な要求に関する情報が登録されているような取引先は、反社チェックをしてみるというのも評価基準になりえます。

 

【まとめ】

 以上みてきましたリスク評価の基準、つまり反社チェック調査のメリハリ付けのルールを整理します。

 まず、一定の条件を満たすような取引先は、リスクベースの観点から反社チェックの対象から除外します。

 それ以外について、「5つのリスク要素」に該当事項がない取引先は、簡易調査で済ませます。

 そして、「5つのリスク要素」にひとつでも該当事項がある取引先については、標準レベルの調査をきちんと行うといった流れです。

 そして、買収や増資先の調査といった、特に質的にも金額的にも重要な取引においては、特別な調査を実施するといった設計が考えられます。今回は、具体的な調査の内容や手法には触れておりませんが、ポイントは、よりリスクの高そうな相手や取引に、調査のためのリソースを投入していくべきであるということです。

 

【導入支援とトレーニング】

 本日ご紹介しましたリスクベース・アプローチによる、反社チェック体制の導入についてもし、ご関心があれば、お気軽にお問い合わせください。

 また、本セミナーでは取り上げなかった、具体的な調査手法や調査のための前提知識などについてはトレーニングを実施させて頂きます。

 自社で反社チェックを行っている企業様の新任者の育成やご担当者様のスキルアップに最適です。また、我々のような調査会社に委託する場合でも、その調査方法などが妥当かを評価できる人材は必要ですのでマネージャー層の方にも参考になると思います。

 トレーニング・プログラムでは、商業登記や不動産登記の見方、その他の情報源の活用方法などに加え、演習として実際の企業の調査をしていただき、レポートを作成していただきます。かなり実践力がつく内容ですので、ご関心があれば、お気軽にお問い合わせください。

 

ご清聴ありがとうございました。

アクティブ株式会社 代表取締役泉博伸