【入門】与信限度額の厳格運用と偽装工作(1)

 ■イントロダクション

与信限度額の厳格運用とは、与信限度額を適切に設定し、それを遵守させることです。

 

与信限度額の超過を許さず、超過した場合は厳しく対処する。超過が見込まれる場合は、予め与信限度額の増枠申請を行わせ、なぜ増枠が必要なのかを審議する。

 

このように与信限度額を厳格に運用することで、自社の体力を超える与信残高を抱えることを防止し、かつ、不自然な大量注文などの異変を検知することができるのです。

 

整理しましょう。与信限度額の役割は2つあります。

 

1つ目は、焦げ付きの損失の上限を画する、つまり財務ダメージを限定化させること。

 

2つ目は、不自然な大量注文などの異変を感知するセンサー機能です。与信限度額の使用率がギリギリとなるか、超過することで、事態急変のアラートとなるのです。

 

与信限度額が、こうした役割を果たすための前提条件として、与信限度額が厳格に運用されていなければなりません。

 

与信限度額を厳格に運用することが、時として悪い副作用をもたらす場合があります。

 

副作用とは、与信限度額による統制を回避しようとする偽装工作、不正が行われることです。

 

これらの不正は、不幸にも自社の営業担当者と販売先が結託することにより行われます。

 

従って、これらの偽装工作、不正を防止し、けん制することは、与信管理や審査部門、内部統制や監査部門など「管理部門」の責務といえます。

 

そのためには、管理サイドとして「偽装工作の型」を頭に入れておくことが必要です。

 

また、「偽装工作は見破られる、いずれ発覚する」ことを研修などで周知させることは、工作行為の未然抑制にも繋がります。

 

与信限度額の厳格運用とは、その副作用、不正行為を抑止することも含むものと認識することが重要です。

 

与信限度額が厳格に運用されている場合、営業現場の担当者としては、それを遵守しなければなりません。

 

超過させれば怒られる、増枠申請すれば細かいことまで審査されて面倒くさい。せっかく、販売先が「もっと売ってくれ」と言っているのに、社内手続きが煩わしく困難で応じてあげられない。思いが巡ります。

思い悩んだ現場の営業担当者としては、次のような「知恵」を働かせるでしょう。

 

すなわち、現在抱えている与信残高(売掛債権残高)、および将来発生が見込まれる与信残高を圧縮させれば、与信限度額の増枠申請が不要となる。与信残高の推移を圧縮させれば、限度額に対する余裕が生じ、もっと売り込んでも枠オーバーとならない。

 

このように考えを巡らせることが想定されます。

 

もちろん、適正な方法で与信残高の圧縮を図ることは望ましいことです。回収サイトを早める、有効な相殺原資の確保に努めるなどの行為は、与信限度額の厳格運用の良い意味での効果とも言えます。

 

問題なのは、偽装工作によって虚偽的に与信残高の圧縮が図られることです。この場合の与信残高の圧縮は、見せかけであり、与信限度額の厳格運用を回避するために行われるものです。

 

具体的には次のような偽装工作があります。

・ニセ相殺

・偽装回収

・迂回取引

 

 

H.Izumi