与信限度額の俗説を斬る。正しい思考と設定方法。

売り込みリスクの正しい測り方。

手抜きの与信限度額は有害無益!与信管理が崩壊する


年間約13万人の方々に訪れて頂ける本コラムの中でも、

 

与信限度額に関する記事のページビューは多い。改めて興味関心の高さを感じる次第である。

 

 

さて、与信限度額については、全く意味不明な創作的な設定方法が流布していると思う。

 

 

今回取り上げる俗説は、

 

与信限度額=「相手の買掛債務残高×●%」という

 

極めて創作的な設定方法だ。

 

 

この式は、私には全く意味が分からない。

 

相手への売り込みリスク(主要サプライヤーになると抜き差しならない関係になるリスク)

 

を意識した与信限度設定のつもりだろうが、全く、そうなっていない。

 

加えて「与信」の根本からズレた「それっぽくみせる」だけの創作式にすぎず、

 

このような創作式で与信限度管理を行ったら架空取引など不正が横行するだろう。

 

(与信限度は不正取引を感知するセンサーであるべき点は強調したい。こちらの記事もご参照)

 

 

 

意味不明な創作式は遠慮なく斬らせていただく。

  

 

まず、屁理屈から言おう。

 

相手が納品と同時に支払う(=キャッシュ・オン・デリバリー)ような

 

金払いの良い会社であれば、相手のB/S上の

 

買掛債務の残はゼロであり、創作式では与信限度額が計算できなくなる。

 

 

ところで、相手が即金で払ってくれるからといって、

 

その相手への与信額がゼロかというと、そうではない。

 

なぜなら、商社やメーカーは納品までの「リードタイム」が発生し、

 

その間にも与信ポジションを抱えるからだ。

 

「受注残」やファームオーダー(正式注文)が無い状況の中での「見越残」のことだ

 

相手からの発注(発注見込)を受け、

 

自社が原料を仕入れ、製造している間に相手が倒産したらどうなるか?

 

 

この与信ポジションの考え方は、どんなビジネスをするにも非常に重要となる。

 

納品検収前(債権化前)に、どれだけの時間と労力を投下しなければならないのか?

 

その間に相手が倒産したり、逃げたり、話を反故にしたらどうなるのか?

 

リードタイム中に投入する経営資源は、他に向けられない。

 

つまり「機会費用」が発生しており、それを認識するのが「与信ポジション」の考え方だ。

 

これは、ビジネスをするうえで極めて重要な経済学の思考だ。

 

起業すれば尚更よくわかる。ポジション思考のない経営は破綻に至るだろう。

■正しい与信限度額設定の基本思考

 

この与信ポジションの概念を踏まえたうえで、

 

正しい与信限度額の設定方法を示しておこう。

 

 

まず、

 

その取引先への想定の与信額を計算する。

 

それは、

 

「想定月商」×「想定リードタイム(ヶ月)+債権回収サイト(ヶ月)」

 

と計算される。

 

 

そして、

 

与信限度額の申請およびその承認審査においては

 

この「想定月商」「想定リードタイム」の根拠を

 

営業と審査部門で、きちんと詰める

 

 

これが与信管理の肝となる局面だ。

というかこの「詰め」こそ与信限度の「管理」そのものだ。

 

 

取引の実態、前年実績、今後の見通し、市場環境や営業方針等を踏まえて「想定月商」を詰める。

 

ビジネスのプロセス、商流・物流等を踏まえて「想定リードタイム」を詰める。

 

そして、

 

「想定月商」「想定リードタイム+回収サイト」が妥当と判断されたとき、

 

「想定月商」×「想定リードタイム+回収サイト」

 

=「与信限度額」として設定するのだ。

 

 

そして、信用リスクと与信限度額の多寡に応じて

 

決裁レベルやモニタリングの頻度や濃淡を調整する。

 

これが正しい与信管理だ。

 

 

このようにして

 

きちんと詰めた与信限度額は、

 

実体のない架空取引のセンサーとなり、抑止になるのだ。 

 

 

なお、「想定月商」について、理論的には納品前の仕掛段階の価値は

 

原価ベースで算定する等々の議論があるが、

 

実務上はそこまでは難しいので、「月商」で掛け算する。

 

 

そして、これもまた実務上の制約から

 

リードタイムを省き「債権の回収サイト」に限定したのが、

 

巷で「与信限度額」として流布している公式だ。

 

「想定月商」×「債権回収サイト」=「与信限度額」

 

これは、いわば債権化後の与信リスクだけに限定した次善策であり、

 

本来は、その前の見越や受注段階から与信として認識するべきなのだ。

 

それが管理上は難しいということで「債権回収サイト」だけに

 

フォーカスしているに過ぎない。

 

(もちろん「受注残」から管理している会社もある。

 

 なお、リードタイム思考がないと預託取引の限度設定がチンプンカンプンになる

 

 

事業を創ったり、起業したいビジネスパーソンは

 

次善策程度のリスク管理をしていてはだめだ。

 

会社の管理上は債権しか見なくても、自分の頭の中では、

 

いつ・どれだけのリスクが発生するか?を意識する訓練をしておくべきだ。

■創作式の更にダメな点:正しい売り込みリスクの測り方

 

 

さて、与信限度額=「相手の買掛債務残×●%」の創作式の、

 

さらにダメな理由を指摘しよう。

 

 

この創作式の「●%」は、いわゆる取引シェアのつもりだろうが、

 

支払サイト次第で買掛債務の金額が増減するし、季節変動もあるので

 

取引のボリューム(フロー概念)を測る計算式としては、甚だナンセンスだ。

 

 

相手への売り込みリスク(主要サプライヤーになると抜き差しならない関係になるリスク)

 

を測りたいなら、近似指標として

 

相手の当該商品の「年間仕入高」という「フロー概念」をベースに計算すべきだ。

 

売り込みリスクの考慮は、与信限度設定における「想定月商」の詰めの際に行う。

 

想定月商×12=年間取引額(フロー概念)であり、これと相手の「年間仕入高」と比較するのだ。

 

多すぎれば「想定月商」を減らして与信限度額の申請額を調整する。これが本来のやり方だ。

 

(想定月商の詰めの際にはもちろん季節性を考慮すべき場合もある)

 

 

 

■手抜きの与信限度設定なら無い方がいい。危ない。

 

与信限度額の基本原理は極めてシンプルだ。

 

与信限度額=「想定月商」×「想定リードタイム+債権回収サイト」

 

この「想定」について、

 

営業と審査でしっかり根拠をつめる。

 

これが大事であり、難しい点でもある。

 

時に営業VS審査のバトルとなるかもしれない。

 

この詰めをいい加減にするから、架空循環取引が横行する。

 

逆にしっかり詰める作業を行うと不正取引の抑止となる。

 

 

意味の分からない創作的な与信限度設定では、

 

有事の際に説明責任は果たせない。

 

 

与信限度額の設定は会社を守る極めて重要なプロセスだ。

 

 

それを「簡単に」「お手軽に」設定しようとするから、

 

意味の分からない創作式が登場し、

 

本筋からズレた「役に立たない与信管理」に陥ってしまう。

 

 

企業存続の根幹業務を手抜きするな!  ということだ。

 

手抜きで設定した与信限度額ならむしろ無いほうが安全だ! ともいえる。

 

 

実際に、手抜きで設定した与信限度額が「形骸化」し、潰れた会社もある。

 

与信限度額の形骸化がなぜ起こるか?

 

テキトーに設定した与信限度額は

 

「どうせテキトーに設定したんでしょ。目安程度だよ」

 

といわれ社員にナメられるからだ。

 

こうなると誰も与信限度を守らなくなり、

 

与信マインドが全社的に弛緩し、与信管理は崩壊する。

 

そういった会社は「危ない会社」として周囲から警戒されるだろう。

 

与信規律とは、与信限度設定をいかに真摯にやるか?ということだ。

 

与信限度額が「テキトーなもの」とナメられないためには、

 

しっかりとした設定根拠・詰めのプロセスが必要だということだ。

 

 

今一度、自社の与信限度額の設定方法を

 

合理的に説明できるか再考する時期だろう。

 

安易な「簡略化」?「お手軽化」?で

 

本質を逸脱してはならない。

 

説得力・納得性のない与信限度額ならない方がいい。

 

これだけ不正取引が横行している以上、

 

改めて与信限度額の重大性と本質の理解が必要だと思う。

 

 

アクティブ株式会社 泉