不動産を悪用した資本の粉飾


一般に、金額が大きく、かつ、その価値がわかりにくいモノは粉飾の恰好の道具となる。その最たるモノが「不動産」だ。今回は不動産を悪用した典型的な資本の粉飾(水増し)手法についてご紹介し、併せてコンプラチェックの際のポイントについても述べたい。

 

不動産を道具した粉飾(現物出資)

例えば、無価値な不動産を1億円の価値があるものとして知人等から「現物出資」してもらい、資本金を1億円増加させるといった粉飾手法である。会社の資本は実質的に何ら充実していないのに見かけだけ資本金が1億円水増しされてしまう。

 

もちろん、このようなデタラメな現物出資が行われないよう、現物出資で資本を増やそうとする際には原則として裁判所に「検査役」の選任を申し立てなければならない(会社法)。しかし、これには例外規定があり、実務上は、検査役の選任手続が省略されるケースがほとんどのようである。

 

弁護士、公認会計士、税理士などの専門家から現物出資財産の評価が相当であると証明を受けた場合、検査役の選任を省略できる。不動産の場合、これら専門家の証明に不動産鑑定士の鑑定評価も必要となる。実務上は、この証明により現物出資が行われる。

 

現物出資に専門家の証明があれば「一般人」は安心してしまうだろう。しかし、コンプラチェックの担当者はそれだけで安心してはならない。取引先(チェック対象)が現物出資で資本を補強したという情報をキャッチした場合、むしろ警戒し、その内容を精査すべきである。

 

とはいえ、現物出資の評価額が妥当かどうかを判断するのは難しい。不動産であれば、原価法、取引事例比較法、収益還元法など不動産鑑定に用いられる評価手法のほか、実勢価格、公示地価、路線価、固定資産税評価額など様々な評価額が存在する。不動産には個性(立地や土壌等)があるし、鑑定士の評価額が妥当かどうかを判断するのは難しい。

 

したがって、チェック担当者がまず行うべきことは、現物出資をする者(増資の引受先)および証明に携わった専門家(弁護士等や不動産鑑定士)の素性をチェックすることである。

 

難しい国家試験に合格し高度な専門知識を有しているからといって、全員が職業倫理を備えているとは限らない。過去には現物出資に際し不動産を不当評価した不動産鑑定士が金融商品取引法違反(偽計)容疑で逮捕されている。怪しい専門家が関与するファイナンスは怪しいものとして警戒すべきである。

 

現物出資に関する情報は、その上場会社により開示されるので、その文書から関与する専門家や増資引受先の情報をピックアップする。

 

専門家(評価者)のチェックに関しては、懲戒処分等の有無を官報公告で確認する。事件化していれば新聞・記事データベースでヒットする可能性もある。これらは最低限のチェックとして行いたい。

 

さらに、懲戒や逮捕歴がなくとも、過去にファイナンスに携わった会社の風評が芳しくない可能性もある。いわゆる「ハコ企業」御用達の専門家である可能性もある。

 

 

冒頭述べた通り、不動産は金額が大きく、かつ、その価値がわかりにくいため粉飾の恰好の道具となる。上記は直接的に資本を粉飾する方法であったが、例えば、連結外の関連会社(経営者親族の資産管理会社や息のかかった取引先等)に高値で不動産を売却し、売却益を計上することで資本を水増しすることもある。その発展形として、取引先と結託し、仲間内で不動産を循環取引して売却益を計上しあう手口もある。

 

取引先(チェック対象)について、不動産を売却して利益を計上したといった情報をキャッチした場合は、譲渡先や物件の情報(登記等)などについても目を向けるべきである。

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