【与信管理の経済用語】

「ポンジ」と「ミンスキーの金融不安定性定理」


 投資詐欺等の世界で「ポンジ・スキーム Ponzi scheme」という用語が定着している。

 

 端的に言えば「自転車操業」の意味であり、新たな出資や借入で手にした資金を運用せずに、以前の出資者や債権者への配当や返済に回すといったデタラメな(詐欺的な)状態を示す用語である。

 

 この用語は経済学者であるハイマン・ミンスキーが、1980年代から提唱した「金融不安定性定理」のフレームワークにおいて用いたのがルーツであると思われる。

 

 1920年代の詐欺師チャールズ・ポンジ(ポンツィ)の名前に因んでミンスキーが使った用語である。イタリア生まれのポンジは移民としてアメリカにわたり、国際郵便切手への投資で高配当を謳い多額の出資金を募った。しかし実際には切手の購入は行わず、以前の出資者への配当に回し、それが破綻して詐欺罪で有罪となった。

 最近でいえば、禁固刑150年の判決を受けた金融詐欺師バーナード・マドフ(2021年4月逝去)のような人物を思い浮かべればわかりやすい。

 

 

 さて、経済学者ミンスキーは1996年に逝去しているが、彼の金融不安定性定理は2007年の金融危機を説明する理論として脚光を浴び、経済学を知らない一般の人々にも、その名が知れ渡った。

 

 ミンスキーは、資本主義は元来、不安定であると考えた。

 

 経済が好調な時は、企業や銀行が楽観的になり、負債比率を高めて積極的な投資や与信を行う。しかし、やがて過熱を懸念した中央銀行が利子率を引き上げること等によりブームは冷却される。負債比率を高めていた企業は倒産し金融機関にも焦げ付きが発生し経済は危機状態となる。

 

 こうした不安定な動態を説明するのに、ミンスキーは経済状態(経済主体の金融ポジション)を次の3つに分類した。

 

■経済主体の金融ポジション(3分類)

 

(1)ヘッジ金融

 ある経済主体の期待(≒予想)所得が、すべての期間において、すべての現金支出を十分に上回る状態。最も安全なポジション。

 

 企業でいえば、営業キャッシュフローの黒字により、投資や財務キャッシュフローの赤字を十分かつ永続的にカバーできる状態を示す。

 

(2)投機的金融

 ある経済主体の期待所得が、利払いをするには十分であるが、元本については借り換えが必要な状態。

 

 元本返済には資産の売却が必要で、資金繰りのためには借り換えを絶対に成功させなけばならないという投機的な状態にある。

 

(3)ポンツィ金融(ポンジ金融)

 

 最も危ない状態。期待所得により利払いすらできない状態。利払い分についても借入が必要で、借入残高が増大していく状態。

 

 つまり借入を増加させることでしか、元利の支払いができない状態を示す。大雑把に言えば、営業利益が支払利息を下回るような状態である。投資スキームでいえば、新たな出資・借入で過去の出資者・債権者に配当や利払いをする詐欺的な状態である。

 

 

 安定的な経済が続くと経済主体が強気となる。企業も銀行も、債務不履行リスクを過少に評価し、負債比率を高めながら投資を増大させる。

 

 これにより「ヘッジ金融」から「投機的金融」のポジションに移行する経済主体が増加し、経済の不安定性が高まる。

 

 そして中央銀行の利上げや経済主体の期待反転により景気が悪化し、「投機的金融」から「ポンツィ金融(ポンジ金融)」へ転落する経済主体が増加する。

 

 経済は極端に不安定な状況に陥り、債務不履行や倒産が多発する「危機」に直面する。

 

 このように安定的であった経済が、自然の摂理(企業や銀行の利益追求行動)により不安定化する。すなわち「安定が不安定の原因である」という仮説が、金融不安定性定理である。

 

 

 米国の金融危機は金融革新により家計部門が十分な所得がなくとも住宅ローンを組めるようになりポンツィ金融の状態になったことが原因である。その住宅ローンが複雑に証券化されて各国の金融機関等にバラまかれ、これが世界へと危機が波及する原因となった。

 

 

 以上の話は与信審査パーソンにとって何ら違和感のない理論であろう。

 

 の取引先の与信分析(財務分析)において、相手が(2)の投機的金融や(3)のポンジ金融の状態にあるか、気を配っていることだろう。

 

 分析において債務償還力や利払いの余力に着目するのは、ミンスキーの経済理論と整合的である。

 

 言うまでもなく、貴社の取引先ポートフォリオにおいて「投機的金融」や「ポンジ金融」の状態にある企業が多ければ、貴社もやがて同様のポジションに転落するだろう。金融ポジションは連鎖する。

 

 取引先ポートフォリオを常に見直す必要があるのはこのためである。

 

アクティブ株式会社 泉博伸

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