なぜ与信限度額は「ハードリミット」であるべきなのか?

~与信限度額設定のフレームワーク~



本コラムは、そのコンセプトの通り「独自のスパイス」を醸し出せているのか、

 

ここ最近もアクセス数が伸びており

 

特に「与信限度額」に関する記事は多くの閲覧を頂いている。

 

共感のお便り・お問い合わせも頂戴するなど、執筆者冥利に尽きる想いである。

 

 

改めて「与信限度額」への実務的な関心の高さを感じている次第である。

 

ここで重ねて、強調したい。

 

事業会社の与信限度額は「ハードリミット」(徹底遵守・厳格運用)

 

でなければならない。

 

 

別記事「与信管理は与信限度額で行う ~厳しく運用していますか?~」では、

 

与信限度額「徹底化」の理由を主として私の経験的な側面から強調したが、

 

以下では、多少なりとも「リスクマネジメント論」に即した形で、

 

再度述べ直してみたい。

 

 

▮「マクロの与信限度額」


 与信限度額を考えるにあたって、

 

「マクロの与信限度額」から始めたい。

 

「マクロの与信限度額」とは、

 

その企業(御社)が、会社全体として取れる与信総額の限度である。

 

会社全体(マクロ)として、どれだけの与信総額を抱えられるかは、

 

第一に自社の「財務体力」に制約される。

 

 

自社の「財務体力」を具体的に近似したものを「純資産」とすれば、

 

抱えられる与信総額は、自社の「純資産」の額によって決まってくる。

 

 

他方で、与信総額のすべてが損失化するわではないから、

 

それが損失化する確率が低ければ低いほど、同じ純資産でも取れる与信総量は多くなる。

 

 

つまり、「マクロの与信限度額」は、

 

自社の事情(純資産)と相手の事情(取引先「総体」の倒産リスク)によって決まってくる。

 

 

もちろん、企業が事業活動で晒されるリスクは与信リスクだけではない。

 

 

流行り廃りで商品やブランドが陳腐化してしまうリスク(市場リスク)や

 

天変地異によって工場が倒壊してしまうような自然災害のリスクもある。

  

自社の「純資産」は、こうしたあらゆるリスクのバッファ(備え)となるものである。

 

 

逆に言えば、「純資産」のすべてを「与信リスク」だけの「備え」としては使えないのである。

 

 

従って、純資産の各リスクへの「割り振り」が必要になる。

 

 

純資産をどのリスク(事業)にどれだけ割り振るのかを決めることを「資本配賦」という。

 

 

この「資本配賦」によって与信リスクに割り当てられた純資産(の一部)の額と、

 

総体としての与信リスクの顕在化(焦げ付き等)の確率によって、

 

マクロの与信限度額(会社全体として取れる与信額の上限)が決められる。

 

 

与信限度額の遵守とは、

 

まず第一にこの「マクロの与信限度額」の厳守のことを意味する。

 

 

「マクロの与信限度額」を超えた与信残高を抱えているということは、

 

自社の体力を超えたリスクポジションを取っていることとなり、

 

もしリスクが顕在化した場合は、企業存続に重大な悪影響が及ぶ。

 

 

このように「マクロの与信限度額」とは、

 

会社の生き死にを決める非常に重大な数字であり、

 

徹底遵守することは当然である。

 

 

▮「マクロの与信限度額」と資本政策


一方で、別コラムでも述べている通り、

 

与信限度額にはもう一つ「センサー」の役割がある。

 

 

自社の戦略上、どうしても取りたい与信リスクがあるが、

 

それをテイクすると「マクロの与信限度額」を超えてしまう。

 

 

ジレンマだ。

 

しかし、こういったジレンマを感じるということは、

 

まさに「マクロの与信限度額」が、

 

「健全なセンサー」の役割を果たしていることを意味する。

 

 

「そうか、成長するためには、

 

 その与信リスクのテイクが必要なんだな。

 

 だけど、それは現状の自社の資本体力を超えている。

 

 よし、資本増強(増資)しよう」

 

 

上場企業であれば新株発行で容易に対応できるし、

 

未上場でも何らかの資本政策は取れるだろう。

 

このように、

 

「マクロの与信限度額」を設定し、それを徹底遵守することは、

 

健全な企業成長とそれを支える適切な財務戦略をとるための「センサー」となるのだ。

 

「ハードリミット」(徹底遵守)の意義はここにもある。

 

徹底遵守すればするほど、センサーの性能は良くなる。

 

 

▮「セミマクロの与信限度額」


 「マクロの与信限度額」(会社全体の与信限度額)を設定した後は、

 

それを各事業部に割り振る。

 

当然、割り振りの前提として、

 

各事業部が現在抱えている与信ポジションと近い将来の予想推移の把握が必要となる。

 

限られた希少な「与信限度額(枠)」を有効に使うためにも、

 

果たして、現状の与信ポジションが妥当なものなのか、

 

各事業部内はもとより他部門・管理部門を巻き込んだ全社的な議論が必要になる。

 

自分が乗る船がどれだけの積載を抱えて、どこに向かおうとしているのか?

 

与信限度額を徹底意識することで、事業部内外の会社の多くの人が

 

会社の現状と将来像について必然と考えを巡らすようになる。

 

(だから与信限度設定のプロセスは重要なのだ。

 

「安易」に与信管理を「効率化」「簡単化」すると会社は弱体化すると考える。

 

なお「与信限度申請のプロセス変革が企業価値向上をもたらす」という議論は、

 

将来的にもっとフォーマルな形で公表したいと考えている)

 

 

各事業部に割り振られた、与信限度額(枠)(「セミマクロの与信限度額)」)を、

 

当然、各事業部は遵守しなければならない。

 

各事業部の各取引における与信限度申請は、

 

まずこの各事業部に割り振られた与信限度額(「セミマクロ与信限度額」)に制約を受ける。

 

 

▮「ミクロの与信限度額」


「セミマクロ(事業部)の与信限度額」を遵守するという制約の中で、

 

各事業部およびその営業パーソンは、自社の成長を目指してリスクテイク(与信取引)を遂行する。

 

リスクなくしてリターンがないのだから、

 

「これは!」と思う取引や取引先があれば、

 

多少相手の財務内容が悪くても取引申請をあげてみる。

 

当該事業部門の担当審査部員としては、

 

会社として承認を得た事業部内の「セミマクロ与信限度額」

 

を意識しながら、その営業パーソンがあげてきた申請書を吟味する。

 

 

個々の取引申請に係る与信限度額(「ミクロの与信限度額」)は、

 

「セミマクロ与信限度額(枠)」に余力があれば、

 

基本的には営業パーソンが申請してくる金額の満額承認(の所見)で良い。

 

ただし、申請限度額の金額の「妥当性」はしっかりと詰めた方が良い。

 

そうでないと、「ガバガバの枠」となり、センサーの機能を果たさないからだ。

 

限度額に対して使用高が常時低水準だと販売急増等の異変に気付けない。

 

だから、本当に必要と見込まれる与信限度額だけミリミリの満額承認の所見を出すのだ。

 

申請限度のベースとなっている「想定月商」の根拠をしつこいぐらいに確認する必要がある。

 

 

「セミマクロ与信限度額(枠)」に余力が無いようであれば、

 

他の取引先への与信限度枠を削るか、当該申請の与信限度額を減らすしかない。

 

残念なことのように思えるが、これは、各取引の意義を再考する良い契機となる。

 

与信限度額を徹底意識するからこそ、その機会が生まれる。

 

 

ミクロの与信限度額は、取引の異変を全社に伝達する最前線の神経細胞である。

 

ミクロレベルで与信限度が遵守されなければ

 

全社的(マクロ)な観点でのリスクマネジメントなど全くの砂上の楼閣となる。

 

だから、与信管理部門は、与信規律の守護神として、

 

個々の取引における限度オーバーに対して特に厳しく臨む必要があるのだ。

 

(営業パーソンに与信限度額の重要性に認識させる有効な手段について別記予定)

 

▮「反社チェック」の必要性


 もうひとつ重要なのは、「反社チェック」(反社会的勢力等への関与チェック)だ。

 

実際のところ、与信審査部門で「反社チェック」を取り入れている会社は少ない。

 

一般的には、「反社チェック」はコンプライアンス部門や総務部が所管しているケースが多い。

 

それは、反社リスクが「オペレーショナルリスク」(非ビジネスリスク)として

 

整理されているからかもしれない。

 

リスクが顕在化した場合の損失が、通常のリスク・リターンに乗らないから、

 

事業部門以外で見た方が良いという設計思想が働いているのかもしれない。

 

これは正しいし、何らの異論はない。

 

 

しかし、与信リスクを取るか取らないかを決めるにあたって、

 

相手の業績や財務内容が悪いとかの判断の前に、

 

そもそもビジネスを取り組んで良い相手なのかをきちんと調べる必要がある。

 

ビジネスが始まって、どんどん深入りして抜き差しならない関係となった局面で、

 

果たして、さらに「つっこんで」支援できる相手なのか?。

 

支援したことによって、反社勢力に加担しているとみられるリスクはないのか?

 

こうした事前精査は、与信リスクをテイクするかどうかの大前提と思われる。

 

 

そして、当初は「通常の会社」であったはずなのに、

 

財務悪化を理由に反社関与資金を導入して「フロント化」してしまう事例もあるように

 

通常の与信リスクと反社リスクは密接不可分にあるともいえる。

 

取引後のモニタリングにも「反社チェック」を入れていくべきなのだ。

 

実際に取引相手に近い事業部またはその与信審査部署こそ反社チェックを入れるべきと考えている。

 

 

弊社(アクティブ株式会社)が、

 

反社チェック調査を手掛けている理由は、ここにある。

 

弊社(アクティブ株式会社)は、調査と与信実務の経験をもとに、

 

通常の与信審査プロセスの中に、反社チェックを導入する支援(コンサルティング)を行っている。

 

「与信審査」のプロセスで反社チェックを取り入れてみてどうか。

 

それによって(与信限度の中で)大いに与信リスクをテイクできるようになる。

 

 

話を戻そう。

 

以上見てきたように、与信限度額を徹底遵守することで、

 

企業存続を揺るがす損失を防止するだけではなく、

 

成長のための適切な財務戦略や会社の将来像

 

を描く契機が生まれてくるのである。

 

だからこそ、与信限度額は「ハードリミット」であるべきなのだ。

 

 

(記事:アクティブ株式会社 泉博伸)