0点の与信稟議書に喝! 与信管理・審査における財務分析の視点




ある会社の新人営業マンが、長年の得意先Aに関する「与信枠更新」の申請書をあげてきた。

 

例年通りの与信枠での更新を申請するためであるが、その根拠として次のようなコメントを書いた。

 

「売上高はよこばい、収益面も若干の利益計上に留まる。

 しかし、財務内容は「無借金」を貫くなど良好である。

 よって、現行の与信限度額での更新の承認を賜りたい」

 

一見、そつないコメントだ。

 

たしかに、得意先Aは無借金だ。

 

調査会社のレポートにも、「無借金経営を貫くなど財務内容は良好」とのコメントも書かれている。

 

新人営業マンとしては、調査会社のレポートに、そう書いてあるのだから、

 

それを鵜呑みにして稟議書に書いただけなのであろう。

 

しかし、この得意先Aについての与信稟議書の書き方は、

 

0点どころか、カミナリが落ちるほど叱責されるべきものだった。

 

というのも、得意先Aとは数十年の取引関係があり、

 

昔のなごりから、自社が業界平均をはるかに上回る「長期与信」を供与している先であったのだ。

 

業界的には、支払サイトは2か月であるところ、自社は5カ月のサイトを容認していたのだ。

 

自社は、得意先Aにとって主力仕入先である。

 

だから、支払が遅くなる分だけ、得意先Aの資金繰りは楽になり、結果として無借金であるにすぎないのだ。

 

得意先Aが無借金でいられるのは、自社のおかげなのである。

 

取引当事者である自社にとっては、相手の無借金は、何ら褒めるべきことではないのである。

 

この点を無視して、「無借金だから与信枠の更新をお願いします」、

 

というのは、自社が得意先Aとどのような取り組みを行っているのか、まったく無視した稟議書になっている。

 

つまり、営業として失格であり、お話にならない稟議書なのだ。

 

 

一方で、与信審査する側も、十分な注意が必要である。

 

特に単純な財務分析モデルから一律に格付を出し、それに基づく与信管理を行っている場合だ。

 

自社の長期与信のおかげで有利子負債比率が低くなり、

 

その結果として、財務格付が良好となっていることを見逃すケースがありうる。

 

財務格付の良いのは、自社の取引スタンスによるもので、その得意先の実力ではないことに注意したい。

 

要は、取引シェアを踏まえよ、ということだ。

 

取引相手における自社からの仕入比率が20%を超えているような場合は、

 

自社は明らかに相手の財務指標に影響を与えている。

 

そのような場合は、特別な分析が必要である。

 

与信管理における財務分析の出発点は、「取引シェア」であることを

 

営業・与信審査パーソンともに、十分に認識すべきだ。

 

 

これは、調査会社から商社などの取引当事者に転職する場合の注意点でもある。

 

それまでは、第三者的な視点から、「無借金だから、財務は良い」とコメントすればよかったのだが、

 

取引当事者の立場での与信審査においては、それではすまないのである。

 

自社が取引スタンスを変えた場合の相手の財務指標のシミュレーションもできるようにしておかねばならない。

 

                                       (アクティブ株式会社 泉博伸)