欧州司法裁判所(CJEU)が実質的支配者(beneficial owner)の一般公開が人権侵害であると判決


泉博伸(アクティブ株式会社) 2022年12月1日


EU Court of Justice(欧州司法裁判所、CJEU)は、11月22日、会社のBeneficial Owner(以下、BOまたは実質的支配者、受益所有者)に関する情報を一般公開(public access)することが、個人の生活と個人情報に関する重大な干渉であり、基本的人権を侵害し、EU憲章に違反するものであると判示した。

 

EUではマネー・ロンダリング対策に関する加盟国への指令(Directive)によりBOの情報を整備し一般公開することを求めていたところ、これが人権違反であるとされたのである。

 

筆者は一介の信用調査マンに過ぎないので、この判決の法的な評価をすることはできないが、調査の現場感覚からすると実質的支配者の登記制度など役に立たないし、このような制度の運用に貴重な国家財源を投入することは無駄であると考えている。

 

そもそも本当のワルは「フロント」を立てることができるので、こんな公開データベースに登記されない。善良な正直者だけが登記され公衆に晒される、すなわち馬鹿を見る制度である。その結果(特に海外では)誘拐や恐喝のリスクに晒されることになる。

 

公共の目に登記情報を晒し真偽を公衆にチェックさせることで真の実質的所有者の情報を密告的に更新(訂正)させるということが公開アクセスの目的なのだろうが、密告の根拠の裏付けをどうやって取るのか、密告に政治的な意図が隠されていないかどのようにジャッジするのだろうか。まあ、無理だろう。人権侵害以前に、そもそもの発想に無理がある。運用不能な制度(データベース)だ。

 

ともかく今回のEU裁判所の判決は、国家・国際機関や民間企業に蔓延する「データベース至上主義」に一石を投じるものと思われる。無邪気にデータ件数の大きさを誇張し、データベースさえチェックすれば事が解決すると喧伝する詐欺的商法の怪しさがより増したといえる。