反社チェックのプロセスを構築する際に考慮しなければならない論点は、(1)「個々の案件における見極めと判断」、(2)「全体的な業務フロー」です。それぞれ見ていきましょう。
(1)個々の案件における見極めと判断
個々の案件において、反社リスクを見極め取引可否を判断する際には、以下①~⑤が判断要素となります。紙幅の都合上、ここでは、①についてポイントのみ述べます。
【個々の案件における判断要素】
①取引相手の素性(関係先も含む)
②取引内容・経緯
取引の形態・継続性・反復性・代替可否・商流・金額・合法性など
相手にとっての取引の重要度
取引の事実が「公知」となるか?
なぜ知り合ったのか?(誰からの紹介か?)
③自社のニュースバリューと公共性
自社のニュースバリュー(規模、業界ランク、知名度など)
自社の公共性(公的な仕事も手掛けているか、許認可業種か、上場企業かなど)
④社会の視線
相手と関係を持つことを、ステークホルダー(取引先・当局・株主・社員等)、マスコミ、一般消費者などはどのように捉えるだろうか?
⑤自社の理念・方針
自社の経営理念やCSR方針、反社会的勢力排除方針に矛盾しないか?
■取引相手の素性(上記①)
現場のナマ情報、コンプライアンス・ヒストリー(不祥事・事件歴等)、風評(インターネット上のネガティブ情報や関係先情報)などをチェックし見極めます。
現場のナマ情報は重要です。営業担当者などが応接した相手の言動や訪問した事務所の様子に不自然な点が無いか注意を払います。事業実態が不鮮明なのに役員等の羽振りが極端によい場合などは特に注意が必要です。詐欺や不芳な手段(談合・贈賄・偽装など)で儲けているから羽振りが良い、という場合もあります。現場が感じた「違和感」が上司や管理部門などに風通しよく伝わる態勢が重要です。
一方、相手も、自分がチェックされることを心得ており応接時などは「平常」を装うことがあります。また、現場担当者が相手に抱き込まれてしまい「違和感」が黙殺されてしまうこともあります。従い、現場だけに頼るわけにはいかず、管理部門での客観的なチェックも必要となります。新聞・雑誌の記事データベースやインターネットを活用し、不祥事・事件歴や風評を十分に調べることが重要です。
懸念情報を検出した場合の評価・対応については第8号で改めて述べさせていただきます
(2)全体的な業務フローに関する論点
全体的な流れについては、(ⅰ)反社チェックの「タイミング」、(ⅱ)「チェック対象」の2軸でマトリックスを作り、各ボックスに実施するチェック内容を規定していくことが考えられます。
(ⅰ)「タイミング」ですが、①新規取引の際の「新規先チェック」、②既存先を定時一斉にチェックする「棚卸チェック」、③新規先・棚卸チェックで怪しいと判定されたものの監視を条件に取引を認めている相手に行う「モニタリング」に大別されます。
棚卸チェックは重要です。新規先チェックでは問題がなかった相手が、いつの間にか問題企業に転落していることが往々にしてあります。企業は生き物ですので、定時的にチェックしていくことが重要です。
(ⅱ)「チェック対象」の設定において、取引先のうちリスクの高い属性・業種・取引を「重点チェック対象」として区分し、より入念にチェックを行うリスク・ベース・アプローチ(リスクに応じた労力の投入)の考え方があります。
反社会的勢力が関わるリスクが高い属性・業種としては、例えば、乗っ取りの対象とされやすい業績不振の新興上場企業、談合・贈収賄等が絡みやすい公共事業関係企業、警察白書で暴力団関係企業が相対的に多いと列挙されている建設業、不動産、労働者派遣事業、風俗営業、金融業、産業廃棄物処理業などが挙げられます。ただし、このほか食品関連、芸能関連、高級品関連、投資関連、広告関連など多岐に及んでおり一概に言えない状況になっています。
リスクの高い取引としては、「紹介による取引」を挙げておきます。自社を罠にはめるために予め紹介者が紹介先と結託し、詐欺スキームを組んでいる場合があります。
新たに株式を上場しようとする場合は、上場準備の段階で取引先だけでなく、自社の役員、株主、社員など全方位についてチェックを実施する態勢を作り、上場後もその態勢を維持していくことが求められているようです。
(ⅰ)×(ⅱ)のマトリックスを作り、実施するチェックの内容を規定していきますが、その際は、(1)「個々の案件における見極めと判断」で挙げた事項を勘案する必要があります。
次回、個々のチェックの際に利用できる情報源などをご紹介しますので、自社で実施するチェック内容を決める際にご参考になれば幸いです。
■反社チェックの基本